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執務室の新人提督
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夜の片思いは必要な事なのだと信じられる。
 
 大井は提督の頬に手を当て、ゆっくりと撫でた。安らかにあった提督の相が、その白魚の如き指に撫でられ更に穏やかになっていく。
 少なくとも、大井はそう感じた。それが大井の相を提督よりも穏やかにしていく。慈しみに満ちた相のまま、大井は提督の髪を撫でようとしてそれを遮られた。
 遮ったのは、言うまでもないだろう。室内には二人しか居ないのだ。
 
 ――え?
 
 提督だ。提督の手が、大井の手を掴んでいた。いや、それは掴むと言うよりは包み込んでいた、だろうか。未だ眠る提督の体は弛緩したままで、そこに力など込められていない。優しく、羽毛のような軽さだった。
 
 ――……え?
 
 それが不味かった。与えるだけで、与えられない大井の触れ合いだったのだ。この夜までは。提督からしたら寝たままの、意識もしてない仕草だとしても、それをどう受け取るかは大井の心に任せるしかない。
 大井は自身の、提督の手に包み込まれた手を見て、暫しじっと佇み……慌てて立ち上がり手提げ鞄を手にして去っていった。
 月と星だけの頼りない光では、その時大井の相が如何な物であったか判然と出来ないが、態々いう必要も無いだろう。
 
 大井が去ってからも執務室の傍にあった雑な気配は暫く佇み、一度室内を確かめてからその気配を夜の闇にとかして消えていった。白い着物を僅かに揺らしながら。
 
 さて、執務室である。提督は、少しばかり口を動かした後緩やかに目を開け始めた。掛けなおされたとも知らぬ掛け布団を緩慢にのけ、ゾンビの如く上半身を起こした。提督は開ききっていない目で周囲を見回し、壁にある時計へ寝ぼけ眼を向けた。
 
「……あれ?」

 提督が常に起床する時間ではない。眠っていた間に喉は潤いを失い呟いた声は枯れていた。自身の声と喉に水分が足りないと頭では理解出来ず、体の求めるまま提督は小さな冷蔵庫へよたよたと歩み寄っていく。
 あけた冷蔵庫から溢れ出たオレンジ色の明かりに、寝起きの細い目を更に細め、手探りでお茶を取り出す。冷蔵庫横にあるコップを手に取り、そこへお茶を注いで一気に仰いだ。
 
 ――寝直そうか?

 と提督は思ってみたが、どうにも何か足りなくて眠れない、と首を小さく横に振り、出した物をのろのろと片付けていく。壁にある電灯のスイッチを手探りで押し室内を明るくすると、提督は目を閉じて瞼を揉んだ。
 
 ――どうしたものか。

 と寝ぼけた顔でぼうっと考え始めた提督の耳に、ノックの音が飛び込んできた。特に何も意識せず、提督はそれに応じた。
 
「はいはい、あいてますよー……」
「なんや君、えらい時間におきとるねー」

 入ってきたのは髪を下ろし、愛らしい熊さんプリントの寝巻きを着た龍驤で
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