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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 3
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毒性植物だった。
 何故この瞬間に生きていられるんだ、こいつ……。
 「え、じゃあ食事はどうするの? でも、グリディナさんは僕を殺そうとしたよね。会話もなかったのに」
 「気が向いた時に少し喰えば、暫くの間は何も必要無いの。一応、火は通しておきなさいよ。それはあんたの溜め息が物凄くウザかったから。溜め息全部、消滅すれば良いのに」
 「うん。野生植物は果物以外そのまま食べるなって言われてるし、加熱処理はするよ。グリディナさんの前では溜め息も禁止なのか……」
 「物分かりが良くて嬉しいわ」
 昨日集めた枯れ枝に着火。採りたての植物を焼き始めるカールに、優しくにーっこりと微笑む。
 頬が赤く見えたのは焚き火のせいかしら?



 朝食を済ませて伐採を再開。必要数を揃えた所で昼食にして、それから延々と裁断。
 総ての作業を一人でやると張り切ってはいたけど……予想通り、今夜も寝場所は木の上になりそうね。
 「むふぎゅ!」
 はい、合計百八十九回目の転倒ー。
 「丸太切りしてて前面にすっ転ぶ人間もそうそう居ないわよ。力の入れ方がおかしいんじゃない?」
 それでいて伐採道具で顔さっくり……は避けてるんだから、不器用が二周半して実は器用なんじゃなかろうか。
 「教えてもらった通りにしてると思うんだけど、できてないから転ぶんだよね。あはは……情けないなぁ……」
 体中に付いた木屑を払うカールは、笑ってるのに笑ってない。
 ふぅん? ちょっとずつ思考が現実に傾いてきてるわね。
 でも、自己認識で折れて逆戻りはいただけないわ。
 「情けないなりに続けなさい。此処で挫けて無力に嘆いても、もっと情けなくなるだけ。一番駄目な奴の典型を教えてあげましょうか」
 近くの木の枝に寝そべって片手をブラブラさせる私を、瞬いたハチミツ玉が見上げる。
 「自分を駄目だ無力だと言いつつ、改善行動一つしない、自己陶酔型の甘えん坊よ」
 「自己陶酔……」
 「そ。誰にだって出来不出来はあるし、向き不向きもある。そんな当然の前提もそっち退けで「皆にできる事が自分にはできない。自分はなんて情けないんだ」とか、他人を莫迦にしてるわよね。赤子に狩りができる? 料理ができる? そんなモノは、大なり小なり適性と経験と努力の積み重ねでしょう。途中で放り投げておいて、何が身に付くもんですか」
 折角身に付けた能力だって、放置すれば錆びる一方。
 だからこそ、あんたの無自覚は赦せないの。
 私の頭痛を抑えられるのは目下あんたの歌しかないのに。
 卑小な心根で潰すのは、私に迷惑よ。
 「……グリディナさんって、僕より人間っぽいかも」
 「失礼ね! 純血統の悪魔に向かって!」
 「ごめん。僕なりの称賛のつもり」
 手の甲で頬を拭い、可愛らしくにこっと笑う。
 
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