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普段の軽い調子ではない。完全に命を刈り取る者の声音と相だ。常は軽い感じの、所謂今時の女性を装った鈴谷が見せたやたらに重そうな呪怨的顔に、阿武隈はただ黙って頷くしかなかった。
鈴谷から解放され、肩で息をする阿武隈のその上下する肩に、再び誰かが手を置いた。誰かが、などというが、阿武隈にはよく分かっていた。ここには三人しかいないのだ。
阿武隈はゆっくりと顔をあげ、肩に手を置いた人物に視線を向ける。そこには阿武隈の予想通り、霞がいた。笑顔の霞が。ただ、目がまったく笑っていない。その霞が、何かを確認するように阿武隈に対して首を傾げて見せた。ハイライトも無い瞳で、じっと見つめて。阿武隈は必死に、何度も頷いて、また解放された。第一水雷戦隊旗艦として、阿武隈自身どうかと思わないでもないが、怖いものはこわいのだ。
「さて」
手を軽く打ち、鈴谷は常の相で二人へ目を向ける。霞は片眉をあげてその視線を受け止め、阿武隈は平静に戻ろうとして胸を押さえながら視線を迎えた。
「んじゃあ、続行しましょうかー」
結局、まともな答えなどでないままそれは終わった。二人と別れ、阿武隈は軽巡洋艦娘用の寮へ足を向けながら、話題の中心となった出てこない提督を、もやもやとした胸の内で思い出していた。
特に有能な提督ではなく、目を惹くような特技を持つ提督ではなく、人を驚かせるような戦術も戦略ももっていない、ただの提督である。
しかし、そんな凡人をここの艦娘達は求めてしまっている。そのぬくもりと、存在を。純粋な男女の愛である艦娘も居れば、友に対する愛もあるだろう。触れ合いたいといっても、その指先に宿る温度は思いの分だけあって様々だ。
それでも、求めている事に違いは無い。阿武隈は提督の顔を脳裏に描きながら、さて、それは何故だろうと考え始めた。
戦術にはまったく口を出さない。これは艦娘達を信頼していると考えても良いだろう。
編成にもあんまり口を出さない。これは今も昔も編成自体に大きな変化がない事も理由の一つだろう。
阿武隈がかつて艦であった頃、艦長であった者たちや有能であった者達を思い浮かべ、比較した。今の阿武隈の提督の能力は、底だ。誰にも比肩しない。出来ない。劣りすぎている。
そんな事を思っても、歩く阿武隈の相は笑顔だ。確かに、能力を比べれば凡人の提督はまったく駄目であるが……
――そこじゃ、ないもねー。
それではない。彼女達が彼を提督と、司令と、司令官と認めたのは、能力ではない。海の男を見慣れた艦娘達にとって、提督となった男は当初珍しいのが提督になった、と遠巻きに見ているだけであった。だが、男は凡人ながらに海域を効率よく解放し、武装を整え、資材をそろえ、艦娘達を自身の配下におさめた。彼女達が疲
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