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「んー……」
左手にある煎餅をかじりながら、提督は右手にある書類を凝視していた。口の中にある煎餅を飲み込むと、また手に在る煎餅にかじりつく。そうして左手は空になり、提督はまだ手に在る書類に視線を向けたまま、机の上にある湯飲みを左手で探し始めた。
「行儀が悪いですよ、提督」
見かねたのだろう。執務室に置かれた、殆ど専用と化した秘書用の机から離れ、初霜は頼りなく彷徨う左手に湯飲みを差し出した。
「あぁ、ありがとう初霜さん」
やっと書類から目を離し、提督は初霜に礼を述べる。上司というよりは同僚、または後輩に対するような気安さが、この人物の良さであり、上司としての悪さなのだ、と初霜は複雑な思いで小さく頷いた。初霜は提督が口に含んだお茶を飲み込み終えるのを確認してから、提督の手に在る書類を気にしながら口を開いた。
「あの、何かお悩みでしょうか?」
「んー……どうしたもんかなーっと」
「大淀さんをお呼びしますか?」
「いんや、そこまでの事じゃあない……つもりだけどねぇー」
提督は肩を落として、持っていた書類を初霜に渡した。渡された初霜は、さてなんだろう、とそれに目を落とし、はて、と首を傾げた。特に変わった書類ではない。いや、秘書艦である初霜にとって良く目にする物であるし、なんら珍しい物でもない。これのどこに提督が悩む理由があるのかと、初霜は書類から提督へ視線を移した。
問うような初霜の目に、提督は頭をかいて苦笑を浮かべる。
「うちって、水母何人いたっけ?」
その言葉に、初霜はもう一度今は自身の手に在る書類に目を落とした。そこには「水上機基地建設乃至水上機前線輸送作戦」と書かれていた。
水母、水上機母艦という艦種に属する艦娘の数は多くない。現在確認されているだけでも、千歳、千代田、秋津州、瑞穂だけである。しかも内二人の艦娘、千歳と千代田は軽空母に艦種変更する事で戦力を向上できるので、殆どの鎮守府ではこの二人を水上機母艦のまま海上作戦に出す事は少ない。では次の残り二人だが、これは余り鎮守府に配属していない。建造不可で、特別海域での邂逅のみが許された艦娘だからだ。そういった、戦力的問題で装備変更をされ、あるいはそもそも配属していない為、水上機基地建設等の水上機母艦を必要とした遠征任務は余り人気の無い物ではあるのだが……
「うち、水上機母艦結構いたよね?」
「? ありますよ?」
あるのである。少なくとも、この鎮守府には。いや、多くの鎮守府に、いた筈なのである。提督が元々いた場所では。改用、改二用、牧場用、任務用、開幕魚雷用、浪漫用、グラフィック的使用用、中破用、と様々な理由で同一の存在を複数所有していた。当然の事である。
特に水母は任務用が絶対必要な上に、当初千歳と
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