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執務室の新人提督
それから
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 提督当人が、ここに確りと着任したという宣言を。
 
 或る者は口に含んでいた紅茶を吹いて咽せ、或る者は今日に限って遠征、または演習で鎮守府を離れた同僚や姉妹に事を一秒でも早く伝えるため港まで走りまだかまだとそわそわと待ち、或る者は今夜は宴会だと食材をチェックして料理になれたメンバーに声をかけ、或る者は今夜は宴会だとカレーの材料をチェックして自身に勝るとも劣らない腕を誇る駆逐艦娘(陽炎型)に声をかけ、或る者は赤い芋ジャージを脱いで下着姿のまま執務室に突撃しようとしたところを迷彩塗装の艤装装備済みの長姉の腕ひしぎ逆十字固めによって阻止された。この鎮守府は本当に先行きを不安にさせる材料が豊富である。
 
 結局、皆がそれぞれ浮かれて流されて、蓋を空ければ提督即離脱の現実である。
 
 ――明日がどうなるか分からないけれど、そろそろ部屋に戻ろうかしら。

 こうもなれば、明日まともに動ける者は僅かだろう。そうなれば鎮守府自体が開店休業の状態になる。勿論、大本営からの最低限の任務はこなさなければならないが、その辺りは自制しているメンバー……例えば霞などが動くしかない。

 霞は額に手を当て、またも周囲を鋭く目配せし危険を察知した。
 今霞たちが居るここに、とある艦娘がいないのだ。そう、提督と一緒に執務室に戻った、山城が。

 提督の介抱の為にと一緒に執務室まで付き添った山城が戻ってこないという現状が、そろそろ新たな爆弾になるのではないかと感じ取り、霞は腰を上げた。今でこそ場の空気に飲まれ皆ほろ酔い――一部除く――気分だが、一度冷静になれば皆すぐに気付く筈である。そこまで想像してから、霞はテーブルから一人離れようとしていたのだ。しかし、霞とほぼ同じタイミングで腰を上げた者達が居た。
 
 霞の姉である満潮と、それぞれ座っていたテーブルは違うが、扶桑、最上、朝雲、山雲、時雨だ。霞は彼女達を見つめ、西村艦隊の仲間がいない事が心苦しいのか、と思い少しばかり熱くなった目頭でもう一度彼女達を見た。立ち上がった彼女達の相から、「西村艦隊旗艦を気遣った振りして執務室に行けば誰も文句なんて言わないよね」的なオーラを感じ、霞はまた違った感じで熱くなった目頭をおさえ顔を背けた。
 
 ――やだ、大人って汚い。

 場の雰囲気に呑まれ大分思考回路がおかしくなっている霞は、一人そんな事を考えた。が、その霞の肩に手を置いた者が居た。姉の満潮である。
 彼女は霞の目を真っ直ぐに見つめて、口を開いた。
 
「霞だって、初霜が介抱に行っていたら21駆の仲間を気遣った振りして行くでしょう?」
「当たり前じゃない」

 この鎮守府は本当に先行きが駄目だった。
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