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大淀に書類を渡し終えて執務室へと戻る初霜は、自身が今しがた声を交わした大淀の上機嫌な様子に首をかしげながら、ゆっくりと歩いていた。
提督と山城――トップとその旗艦の逢瀬である。直ぐにそれを終わらせてしまうのは悪いのではないか、と考えた初霜なりの気遣いだ。ならそもそも執務室に戻らなければいいではないか、と思われるかも知れないが、執務室にいる提督にはまだ仕事が残っている。それを手伝うのは、初霜の仕事だ。妥協すれば、時間を延ばすしかないのである。
初霜はゆっくりと階段を登り、廊下を歩いた。そして、彼女の目に青葉の姿が映り込み……彼女は駆けた。執務室の前を足音も立てず静かに通り過ぎ、ただ歩いているだけの青葉に近づいていく。その初霜に気付いたのだろう。青葉は常の相で笑いながら、手を上げた。
「どうもー初霜さん。どうしたんですかー?」
やはり常通りの声で青葉は声を上げる。ただ、だからこそ初霜は立ち止まり身構えた。
「え、なんですか?」
自身に向かって身構えた初霜に、青葉は目を剥いて驚く。そんな様子の青葉を無視して、初霜は口を開いた。
「何をするつもりですか?」
「……何が、ですか?」
「何を、するつもりですか?」
「……」
初霜の言葉に、青葉は一度は応じたが二度目は黙った。青葉は廊下の窓から見える青い空を、ぼうっと見た後、興味深げに初霜へ視線を移した。
「どうして、分かったんでしょうか? 後学の為にお願いできますか?」
心底、といった相で青葉は初霜に問い、初霜は青葉から目を離さず小さく首を横に振った。
「第一水雷戦隊の直感、としか言いようがありません」
初霜の言葉に、嘘は無い。階段からあがり、廊下を歩き、向かいからやってくる青葉を見た瞬間、あぁ、今日このタイミングで執務室に行くのだ、と理解した。青葉が執務室で何を言うつもりなのかも、初霜には予想できていた。初霜にも、青葉の気持ちは理解できる。共感も出来る。しかしそれでも。
提督の為にある小さな盾は、それらを看過できなかった。
「本当に、駆逐艦は怖い」
赤い瞳が鈍く光る、陸の上では滅多に見せない初霜の凶相に青葉は軽口で応じた。だが、その青葉の相は口から出た言葉とは違い軽くは無かった。初霜同様の海上作戦中にだけ見せる、戦士の顔だ。腰を落とし、足を肩幅に広げる。退くも往くも、仕掛けるも迎えるも出来る構えだ。
海上とは違い、艤装をまとわない事で軽くなった体を持て余しながら、二人はにらみ合う。
互いに喋らず、目を逸らさず、微動だにせず。そして突如動いた。まったくの同時に、二人が。
仕掛けたのは青葉で、受けたのは初霜だ。真っ直ぐに繰り出した青葉の拳を、初霜は受けずにかわした。艤装からのサポートを受けら
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