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その言葉に、山城はドアを開けた。開かれたドアの直ぐ傍には、倒れた初霜と青葉が居た。だが、嗚咽を漏らす青葉とそれを撫でる初霜から、提督に気付いたような気配は無い。彼女達は提督を認識できていないようだ。この執務室自体が、提督の転移の際に可笑しくなった可能性がある。風呂などを設置できた以上、空間自体は狂っていないはずだが、無機物と生物では違いがあるのかも知れない。そんな事を思い浮かべ、提督は自身の額を叩いた。
今提督にそんな事を考察している暇は無い。提督は山城に横に退くように頼むと、三歩ほど下がって……勢い良くドアの開いたそこショルダータックルをかまして――ぶつかり、倒れかけた。
言葉では説明できない不可思議な現象を前に、山城は目を点にする。ただ、提督だけが悔しげに舌打ちしていた。
「やっぱり、またか」
既に実行済みだったのだろう。半月も居ればその程度は終えているらしい。提督は何が足りないのかと考えるより先に、何をしてないのかと考えた。ここが違う世界で、ここが鎮守府で、ここが提督の在る事を許した場所なら、何が足りないのかと考えて、廊下の窓から覗く空を見た。
提督、と呼ばれる彼は、それをただの暇つぶしで始めた。始めてみれば驚くほどはまり、直ぐに課金して入渠ドックをあけ母港を拡張した。増えていく艦娘に飽きないイベント。それらが彼をずっとそこに繋ぎ止めた。その世界の中で、自身が愛され、求められているなど知りもせずに。
かつて建造し、その誕生を喜んだ彼の初めての重巡が泣いた。
かつて最初の海域で最初にドロップした駆逐艦が受け入れ様としていた。
知った以上、理解した以上、そこで泣いている彼の大事な艦娘が居る以上、提督には今すべき事がある。だというのに、執務室がそれを許さない。
なんで出られないと、何故鎮守府を歩けないと、今になって提督は心底から焦燥し、極楽トンボを決め込んでいた先ほどまでの自分を許せそうにないと憤っていた。
窓から見える穏やかに景色に苛立ちをぶつけ、提督はそれをじっとねめつけた。だが、そこに仄かに映る自身の姿を認めると、反射的にまた目を逸らそうとして、提督は動きを止めた。
提督は窓をじっと見つめ、狂ったように見つめ、自分の服の襟をただただ見つめ、山城に顔を向けた。
「山城さん、この階級章の階級は!?」
「しょ、少佐ですけど……?」
常ならぬ相の、場違いな問いに山城は目を瞬かせながら答え、その言葉に提督は力強く頷いた。 提督は既に開いているドアに足の裏を向ける。そのまま、蹴破るかのように足を落とした。
――ここに着任した新人少佐様だ! 大将でも偶に中将でもない! 何か問題があるかこの野郎!
轟音。そうとしか例えられない音が廊下を、鎮守府を
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