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机の上に置かれた書類の束から一枚取り、その内容を確かめてから提督は判をついた。手元にあった書類を隅にやり、また種類の束から提督は一枚取る。彼がそれを繰り返していると、ソファーに座っていた女性が声を上げた。
「大変そうですね」
そう言って女性――山城は手元の本に目を戻した。大変、とは言っても、その余りの無関心さに提督は肩をすくめて山城に目を向けた。
「なら、手伝ってくれても良いんじゃないか? ここで本を読むより、余程有意義だ」
「提督の仕事でしょう……? 私は今、非番で待機中ですから」
山城のその言葉に提督は少しばかり目を細め、山城は山城で、本から顔をあげ提督に常の相で目を合わせる。僅かな時間目を合わせ、二人は目を離してそれぞれの作業に戻った。
提督は書類を確かめながら頭をかいた。
――そんなに嬉しいものかねぇ、ここで休憩なんて。
判を押しながら、口をへの字に曲げる。おかしな物で、提督には山城の言いたい事が目を合わせただけではっきりと分かる。そしてそれは山城も同様だ。先ほどの二人の会話になっていない会話は、他者にはまったく理解できないが当人達には十分理解できていた。
『たまの非番じゃあないか。君も扶桑さんと一緒にどこかに行ったらどうだい?』
『姉様は伊勢と一緒に新入りの江風達を連れて航空戦艦運用演習に出ました……これ、提督の命令ですけれど?』
『あー……すまないね、申し訳ない』
『……いいえ。じゃあ、私は楽しい休憩に戻りますから』
以上が、二人が目を合わせて声も出さずになした会話である。どういう理由による物か、はたまたただの神様の悪戯であるのか、この鎮守府で出会って以来、提督と山城はこの様な事になってしまっていた。それを山城はそういった物かと受け入れ、提督は仕方ないかと諦めていた。違いはそこだけである。
提督は書類から離れ、頭の後ろで手を組み背伸びをした。
「んー……」
そのまま提督は目を閉じ、肩を解して目頭を揉んだ。小さくため息をはき、彼は目を開けて書類仕事に戻ろうとして、自身に向けられた山城の目に気付いた。
『少し前までよく欠伸を零していましたけど……お疲れですか……提督?』
『いや、最近は良く眠れるようになったから、そうでもないよ』
ここに来た当初から暫くの間、提督は睡眠不足に悩まされていた。状況が理解できても、体と心への負担は大きすぎたのだ。何か特別な訓練を受けた人間でもない、まったくの普通人間である提督にとって、状況の理解が進むほどに疲労は積もって行った。寝不足などもそれが原因だ。
だが、いつ頃からか提督の睡眠不足は解消された。誰かが傍にいるような温もりが、提督に安らぎを与えたからだ。
『今は見逃して上げた方が良さそう
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