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れた。
「やめて、嫌。許さないし許せない。ここで生きるために尻尾をふろうなんて貴方の目は見たくない。そんな目でもう一度私を見たら、沈めて、沈んでやる」
目を見てわかる互いであれば、提督のこの執務室でのあり方など山城にはすぐ分かったのだろう。提督は頬に添えられた山城の両手の震えに、その手のひらの冷たさより痛みを感じた。
「それでも……」
震える山城の声に、提督は一度執務室の扉をみつめてから、目を閉じて山城の手の上に自分の手を置いた。声同様に震えた山城の手を、提督は自身の手で包み込んだ。
「貴方が、こうして触れて……貴方と話し合えて、不確かじゃないから……ここでも良いと思って私達は」
提督より先に、この世界を受け入れた。彼女達は、この世界で良いと判断した。何かが違っても、どこかが違っても、そこに提督が居るからだ。不確かでも、突如消えるでもない、執務室の一室に常に提督が居るからだ。
だから彼女達は提督を確かめる。霞は傍にたって小言を口にし、浜風は誉めてもらおうと執務室に寄り、初風は一緒に在りたいと隣に座り、神通は温もりを求めて寄り添おうとした。大井は、長良は、早霜は、加賀は提督に触れ温もりを確かめ、そして山城は――
提督は震える山城の左手を優しく握り、彼女の薬指にある金属質の冷たさを確かめてから目を開けた。そのまま、顔をあげ山城と目を合わせる。未だ尻尾を振っていれば、提督は山城に沈められる。そして山城は自身を沈めるだろう。
二人は目を合わせるだけで、他には何も無い。山城はあいている手を提督の頬から離し、提督の男にしては細く首に手をかけることも無く、自身の口元に手をあてて俯いた。
「普段静かなタイプは、饒舌になると怖いねぇ」
「……うるさい、提督」
提督の軽口に、山城は目を閉じて大きなため息を吐いた。そんな山城から視線を外し、提督は天井を見上げて肩をすくめる。
「君たちも、やっぱりおかしいとは思っていたんだ?」
「当たり前です……着任もなにも、私達の記憶には貴方との長い時間が在るんです」
開放した海域。走り回ったイベント。増えていく仲間。とある艦娘強化アイテムからの騒動。それらはすべて彼女達のなかの記憶に、確りとある。
「僕はね、確証は今までなかった」
「そうなの……?」
山城の言葉に、提督は素直に頷いた。
「だって僕が君達と会っていたのは、その……まぁ、そういうのでさ。その君達にそういった感情があるのは、僕からしたら十分ファンタジーなんだ」
提督からすれば、そうなる。自身がPC上で触っていた世界のなかで、彼女達一人一人が生きて在り、そこに確固たる感情が宿っていたなど知る筈も無い、知る事もない筈の事であった。
知りもせぬ鎮守府に、
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