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執務室の新人提督
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 ――まったく、らしくない。

 そうぼやきながら、大淀は普段より少し速い足取りで歩いていく。

 ――どうにも、最近は寝不足ですっきりしない。

 出てこようとする欠伸を必死にかみ殺し、大淀は胸を張った。
 
 進むは長い廊下、向かうは提督が座す――というよりは、提督が篭る執務室である。
 大淀は手に持った書類を意識しながら、背を真っ直ぐに伸ばして足を動かす。その姿は見るからに出来る女、といったもので人の目を惹く。事実大淀の視線の先、執務室から出てきた五人の少女達は一斉に大淀に視線を向けた。
 
 大淀、そして五人の少女達は双方歩き、当然そうなると廊下ですれ違う。大淀は見本の様な一礼を、少女達もそれぞれ一礼した。大淀はその少女達の先頭に立つ、黒い夏用セーラー服を着た少女、吹雪に声をかけた。
 
「提督は、おられますか?」
「はい、さっきまで少し話をしていましたんで……」

 そう言って嬉しそうに微笑む吹雪に、大淀はまた一礼し、吹雪もそれに一礼返した。自身の横を通り去っていく少女達を暫し眺めてから、大淀はドアをノックした。
 
「あれ、忘れ物?」

 吹雪達がさって直ぐのノックだ。誰かが忘れ物で戻ってきたかと思っている様子の提督に、大淀は自身の名を告げた。
 
「いいえ、大淀です」
「……どうぞー」

 提督の返事を耳にして、大淀はドアを開けた。
 最初に大淀の目に飛び込んできたのは、テーブルに置かれたスナック菓子各種だ。有名なポテトのチップスや、スティック状の芋菓子やら芋けんぴやら干しいもと、ポップコーンやベジタルなスナック等々が置かれている。

 ――あれは吹雪ですね。

 やたら多いイモ類を持って来たのは間違いなく彼女だ。と大淀は断定した。
 彼女の妹……或いは従妹に当たる綾波なども、食堂に行くと確実に芋を使った料理を口にしている。何か芋に思い入れでもあるのかもしれない。と大淀は歩を進め、テーブルの上にあるそれらを見下ろした。彼女が見る限り、それら全ては未開封である。つまり御菓子を広げてお茶会をしていた訳ではないらしい、と思った大淀は、どこか疲れた相で椅子に座る提督に目を向けた。
 
「これは……?」
「お菓子があんまり無いんじゃないかって、持ってきてくれたんだよ。ありがたいんだけれどねぇ……ありがたいんだけれども、まぁ、なんだろうなぁ」

 疲労を滲ませた提督のはっきりしない言動から、大淀はある程度を察した。何せ先ほどまでいた五人の少女達は大淀よりも年若い、所謂箸が転んでも、といった年頃にみえる外見だ。そしてその外見に応じた少女達の中身では、お菓子を持ってきて終わり、という事には絶対にならない。
 大淀はもう一度テーブルにある雑多なお菓子を見てから更に周囲を軽く見回し、提督にま
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