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含んだ視線から逃げるように手元へ目を落とし、それを見て苦笑を浮かべた。
――あぁ、じゃあこれだ。
「んー……じゃあ、大淀さん」
「なんでしょうか?」
「今度、僕と夜食一緒にしない?」
カップラーメンを手にして自身を見上げる提督に、大淀はきょとん、とした相で首を傾げた。
それはつまり――
「夜食の、お誘いですか?」
「そうそう」
「……カップラーメンの?」
「そうそう」
「……えーっと、私もカップラーメンを買ってきて、一緒に?」
「そうそう」
暫し間抜けな会話を続けた後、大淀はカップラーメンと提督の顔へ視線を何度か往復させ、目を瞬かせた。
「その……」
僅かに相を強張らせ、大淀は口を開いた。眼鏡は窓から差し込む陽の光を取り込み、大淀の目を完全に隠している。
「カップラーメンを食べた事がない……のですが……」
ただでさえか細い声が、徐々に小さくなっていく。しかし、しんとした執務室ではその声も提督の耳に届いていた。気恥ずかしげに俯き、床を右足のつま先で、とんとん、と叩く大淀の姿に提督は
「なおの事だ。よし、今日暇なら一緒に食べよう、大淀さん」
「は、はい。大淀、了解しました」
大淀は背を伸ばし海軍式の敬礼を見せた。提督は頭をかいてから大淀の敬礼に比べれば大分劣る敬礼を返し、大淀の手に在る書類に目を向けた。
「で、えーっと、大淀さん、なんの御用かな?」
「あ、申し訳ありません。こちらの書類ですが少し記入ミスがありまして……」
慌てて執務机に書類を置く大淀の姿は、実に愛らしいものであった。
明石は目にしていた新聞から目を離し、自身の酒保にやってきた大淀に目を移した。大淀に似合わぬインスタントラーメンコーナー前で、これもまた大淀らしかぬ鼻歌交じりで眼前のカップラーメンを選別する姿に、明石は首を傾げた。が、そのまままた明石は新聞に目を戻した。
大淀にとって、何か楽しい事があったのは明石にも当然分かる。だから、明石はそれを邪魔しない事にしたのだ。
それを分かち合いたい、語りたいと思えば当人からよって来るだろう、と。
そして明石に生ぬるい視線で見られていた大淀はというと、
――カレー……とんかつ、劇辛……んー……こう、あんまり匂いが体に移るのはどうでしょう?
などと考えながら物色していた。提督に誘われた夜食用のラーメンを選ぶ彼女の顔は、誰が見てもどう見てもどの角度から見ても上機嫌だ。
数分ほど悩み、大淀は薄塩のカップラーメンを選び、今度はチョコなどを物色し始める。吹雪達はスナック菓子や芋系のお菓子を提督に渡していたが、一口サイズの甘い物は入っていなかった。
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