暁 〜小説投稿サイト〜
執務室の新人提督
19
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


 加賀の言葉に、初霜はふわりと微笑む。幼い顔立ちであるが、その輪郭の中にある表情は、とても大人びた物だ。ただ、加賀はその中に自身に似通った何かを感じ取った。
 
「私達が私達のまま、そうある事を許してくれているのは提督ですもの。青葉さんのそれも、青葉さんらしくある為の物だと思います」

 けれど、と小さく初霜は呟いた。その声は加賀には辛うじて拾える程度の囁きだった。

「それが提督の体を、心を傷つける様なら……」

 その先を初霜は俯いて口にしなかった。かつて、加賀は初霜をこう評した。

『固執はあってもこだわりは無い』と。

 事実、そうであった。初霜は秘書艦であることにこだわりは無い。理由があればすぐ加賀に譲り、過去にも特定の開発の為に何度もその席から離れた。
 だが、固執はある。加賀は初霜の目を見つめたまま、胸中で呟いた。
 
 ――提督だ。

 加賀の胸中の呟きは、正鵠を射ていた。初霜のその感情の根底にはいったいどの様な物が潜んでいるのか加賀には窺い知れない。せめてそれが負の感情ではない事を祈るだけだ。
 ただ、青葉のあれも提督を想っての行動であるのだろうと見ていた加賀は、それが初霜の短い導火線に火をつけないか、それが心配になってきた。水をかける暇も無い、踏み消す暇も無い、そんな導火線だ。火が触れたら、即爆発するだろう。
 
 第一水雷戦隊にもっとも長く所属し、第二水雷戦隊で最後に将旗を掲げた艦。陽炎型や夕雲型の様な生まれからの名機ではなく、改装によってやっと平凡な艦になった艦。長い艦歴の中で駆逐艦として動き続け、走り続け、守り続け、戦い続け、そして最後まで空に火線を放ち続け散った、ただ経験だけを重ねた凡庸な艦だ。幼い顔立ちは少女のものでしかなく、艦娘の顔は苛烈であって当然だ。
 未だ俯いたままの初霜の相がいかなる物であるか、加賀には分からない。ただ、分からなくても察する事は出来るし、感じる事は出来る。殊、今の初霜からは加賀の良く知る艦娘と同じような気配が滲み出ていた。
 
 ――龍驤と同じような物ね。

 加賀と同じく、戦闘機を用いて海の戦場を駆る艦娘だ。戦闘機の運用方法は弓に式紙と違いはあるが、空での動かし方はそこまで離れていない。加賀は脳裏で描いたその龍驤も、見た目こそ少女然とした姿であるが、艦娘としては実に苛烈だ、とため息をついた。"前"にある武勲艦としての本能か、苛烈という言葉が霞むほどに龍驤は苛烈だ。一度敵と見えれば、龍驤の激越は少女の相を容易く消す。まさしく、青鬼も赤鬼も後ずさりする程の恐怖を振りまいて、龍驤は空を制するのだ。 

 ――あぁ、もう。前の意趣返しも兼ねて、扶桑辺りも巻き込みましょうか。

 多分事情を話せば、龍驤や鳳翔も巻き込めるだろうが、被害が少ないに越し
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ