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執務室の新人提督
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ある加賀から見ても、今の扶桑の姿は目に毒だ。背伸びしたがる駆逐艦娘、特に荒潮や如月あたりが目にすれば、扶桑に弟子入りを懇願してしまいかねない程の――凶器である。
 加賀はなんとなく自身の胸を見下ろし、次いで扶桑の姿を眺めた。
 山城と同じ、白い着物と赤く短い袴だ。
 
 ――そんなところも赤城さんに似てましたね貴方は。

 等と思うも、やはり強烈に思うのはその女性らしい曲線と肉厚だ。
 加賀とて、十分なレベルを保った乙女であるが、扶桑のそれは実に豊かだ。
 本当に、心底、心の奥底から加賀は思った。
 
 ――執務室に行かせてはいけない。少なくとも、その表情と仕草では絶対に駄目。

 現状、遵守されている協定であるが、これは危険である。提督が男である以上、この手折ってくれと言わんばかりの凶器は、食べてくれと言わんばかりの凶器は、物騒に過ぎる。
 火薬庫で花火をするようなものだ。夕立に骨を投げるような物だ。火を見るよりも明らかだ。 火薬庫は爆発し、夕立は骨を蹴り上げ手刀を放ち落ちてきたところに全力の拳を叩き込んで粉々に砕け散った骨を足元に、誉めて誉めてー、と言うに決まっている。いや、言う。
 
 このままでは、本当にこの調子のまま今夜にでも執務室に行ってしまうのではないか。
 いや、行く。これ行く。
 若干壊れ気味の思考で加賀は断定し、それを阻止するには如何するべきかと考え始めた。扶桑一人で行くわけではないだろうから、山城に期待するのも良いのだが、何しろ山城である。扶桑が誘えばころっと参るだろう。いや、参るに足る理由だと、乗るに違いない。
 
 ――"第一艦隊旗艦"め……姑息な真似を。

 そう考え、加賀は自身の状態が冷静ではないと感じ努めて感情の温度を下げにかかった。同僚の正規空母達からは、意外に熱くなりやすい、と何度かからかわれた事もあった加賀だが、そうだろうか、と気にする程度であった。が、この時ばかりは、まったくその通りだ、と素直に受け入れた。
 
 ――冷静に、冷静に。

 目をそっと閉じ、頭で、心で、全身で呟き、彼女は静かに目を開けた。隣にいる、どこか戸惑いを感じさせる扶桑の顔を見て、加賀は心の中で弓矢を構え、矢を引き。
 
「扶桑、ごめんなさい」
「どうしたの、加賀? 何か考え事なの? ……私でよければ」

「山城に引きずられていった時の話、提督にしてしまったの」

 矢を放った。
 
 その矢がいかほどの威力であったのか。放った加賀には分かっていた。理解していた。いや、していたつもりだった。
 加賀の隣の扶桑は俯き、ふふふ、あらあら、ダンケダンケと呟くだけだ。その相は、はらりと落ちた扶桑の黒髪に遮られ判然としない。やがて、扶桑はゆっくりと、ゆっくりと顔を上げ――
 
 ――あ
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