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口にしていた内容を少しばかり思い出し、手に在る書類に目を落としてから小さく口を開いた。
「赤城さんと提督と……一緒に飛行機でどこかに行きたいわ……」
「そう、素敵ね」
まるで自身の事のように、扶桑は幸せそうに微笑む。その相が、やはり加賀の中で赤城を思わせる。そして、加賀は思い至った。あるままに受け入れ、時として嵐のように荒ぶる。この二人は、そのタイプであると。
「昔の話だけれど」
「なぁに?」
「赤城さんのプリンを、食べてしまった事があったの」
「……大変だったでしょう?」
「……えぇ」
加賀の脳裏を過ぎる、過ぎ去りし日の赤城の姿はまさに嵐であった。三ヶ月に一度発令される特別海域の第5作戦海域辺りの最深部に座す指揮深海棲艦として出てきてもなんら可笑しくないほどに恐ろしい何かであった。人殺し長屋の異名は伊達ではない。
ちなみに、どうでもいい話であるが一つ。加賀の言を扶桑から伝え聞いた提督は、
「ピトー管かな? 着氷かな? レバノン料理かな? 児童操縦かな?」
という意味不明な言葉を零した後、飛行機だけはノー、絶対ノー、と応えた。
扶桑と加賀の二人は、工廠までの距離など考えず、ただ歩いてただ会話を続ける。二人の間に流れる穏やかな空気は華やかでこそなかったが、包み込む様な優しさに溢れていた。
「青葉も……」
空気に呑まれたのか、加賀は少しばかり穏やかな相で空を見上げた。
「青葉も、思う事はあるんでしょう」
「そうでしょうね……気持ちは、分かるつもりなの」
焦燥があるのだろう。想いがあるのだろう。もっと伝えたい事があるのだろう。青葉には。
いや。
「皆、同じですもの……」
青葉にも。
扶桑のかすれた囁きに、加賀は空を見上げたまま、気付きもせぬまま頷いていた。加賀の見る空は広く、提督のいる執務室は狭い。加賀は、或いは扶桑は、それでもと考えた。不確かであった頃より、確りと提督が在るのだからと。
「それに、これはこれで……酷い言葉になりますが、管理しやすい状態です」
「……そうねぇ」
現状、秘書艦の初霜が一つ頭抜けているが、初霜と言う艦娘は提督からの寵愛を得ると言う事に熱心ではない。愛したい、愛されたい、という感情よりも初霜は別の何かを原理に生きている節がある。少なくとも、加賀や扶桑、そして多くの艦娘達はそう見ていた。
「あぁ、困ったわ……青葉の事を言えないわ」
突如悩ましげに声を上げた扶桑に、加賀は何だと目で問うた。扶桑は目を細め頬に手を当て、ほぅ、っと熱い吐息を唇から零した。
「提督に会いたい、と思ってしまうの……理由も無く執務室にお邪魔するなんてそんな、とは思うのだけれど……」
同じ女で
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