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……加賀」
加賀自身、記憶にある扶桑の奇矯な行動が何かの間違いではなかったのかと思えるほど淑やかに存在する扶桑が、背を向けてどこかへ行こうとしている。意識せず、まったく意識せず加賀は
「よければ、工廠まで一緒にどうかしら?」
そんな事を口にしていた。
加賀、という艦娘は社交的な性格をしていない。表情が出にくい相は他者に誤解を与えやすく、少ない言葉は冷淡に思われ距離をとられがちだ。彼女自身ももう少し相を、或いは言葉をどうにかしようかと思わないでもないのだが、なかなかに矯正できない。
しかし、そんな加賀にも普通に接する艦娘達もいる。例えば、元一航戦の鳳翔と龍驤。同じ一航戦の赤城、二航戦の蒼龍と飛龍、普通に、とはまた違うが五航戦の翔鶴と瑞鶴。
そして、今加賀の隣にいる扶桑もその一人だ。
「そういえば、提督は篭ったままだけれど、運動はどうしているのかしら……?」
「執務室に、ルームランナーがありましたよ」
「健康にも気を使っているのね……なら、いいわ」
「良くありません」
引きこもり自体が問題だ。いい年をした男が鎮守府に着任して以来、執務室から出て来ていないなど、前代未聞の椿事だ。おまけに情けない。人が聞けば一笑に付すだろう。
だが、加賀のそんな言葉にも扶桑は白い指で口元を隠して微笑むだけだ。
「笑っている場合ではありません」
「けれど……加賀?」
「なんですか?」
扶桑は加賀の顔をじっと見つめてから、またコロコロと笑う。
「あなたも、提督に部屋から出てください、と口にしなかったのでしょう?」
「……」
加賀は口を閉ざして、扶桑の視線から顔を背けた。その通りだ、確かに、その通りでしかない。加賀は提督当人に会ったときにも、軽く刺してこそいたが、出ろとは言っていないのだ。
「さっきね、青葉にも色々質問されたの」
さきほど加賀が見たのは、それだったのだろう。扶桑はそっぽ向いた加賀に暖かな目を向けたまま続ける。
「提督が引きこもっているのはなんでだろう、どうしたら出てくるだろう、出てきたら何をして欲しいか、何を言ってほしいか、どこに一緒に行きたいか」
扶桑の言葉に、加賀は脈絡もなく赤城を思い出した。顔を戻し、加賀は隣を歩く扶桑に向けた。作戦行動中には、戦艦の中でも特に特徴的な大型艤装をまとい毅然と火線と砲撃が交差する海上を走る彼女の姿は、そこからは垣間見れない。
――赤城さんも、そうだ。
この二人は切り替えが上手いのだろう。そう思うと、加賀は余計な力が体から抜けていくのが分かった。
「加賀は、もし提督とどこかに行けるなら、どうするのかしら?」
話の続きである。加賀は扶桑が
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