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験が浜風に与えられ、彼女はすぐ一線に立てるだけの錬度を得た。それは、浜風と同じテーブルでおとなしく咀嚼している高波も同じだ。
――これで、もっと先に進める。前より、もっと先に。
浜風は、かつて艦であった頃に不満は無い。やるべき事はやったのだ。最後まで、坊ノ岬沖で沈むその最後まで。
ただ、艦娘となった浜風は、いつしか未練はあったのだ、と思う様になった。少女の形になったからこそ、彼女はそれに気づけた。
笑いたかった。共に。泣きたかった。共に。怒りたかった。悲しみたかった。ただ、共に。
硬い物言わぬ兵器では叶わなかった願いを、少女の体が叶えた。僅かにしか邂逅できぬ彼女の身が現世に触れた時、懐かしい潮風と眩しい太陽を"身体"に感じながら、浜風は確かに喜んだのだ。
――共に。ただ、共に。
浜風はここで、戦い、守り、笑う事が出来る。
浜風は葱とみょうがが沢山振られた焼きソバを頬張りながら、思う。
気心の知れた戦友を与えられた。この鎮守府に。少女として友を与えられた。提督に。幸せだと思う事を与えられた。自分の、提督に。
――そうだ。
浜風は沢庵と白米を口に運びながら、頷いた。今度提督が暇している時にでも執務室に行こう。その時、その場で演習の事、遠征の事、普段の事、色んな事を話そう。と。そして沢山、一杯誉めて貰うのだ、と浜風は笑みで相を輝かせた。
浜風は小皿に盛られたポテトサラダを口に入れた。
それは甘く美味であった。
ふと、浜風と綾波の目が合った。浜風がふわりと微笑み、綾波もふんわりと笑みを浮かべる。
「何と交換します?」
「じゃあ、この明太焼きと……」
そんな浜風と綾波の隣では、高波と時雨が同じようにそれぞれのおかずを取り替えていた。夕立と初雪はいまだ演習の話を続け、綾波はポテトサラダを幸せそうに噛み締めている。
――ずっと、ずっと、ただ、共に。
浜風は強く願った。
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