10
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
、終えた分、大淀さんに預けてきますね」
「はい、お願いします」
初霜は一礼し、ドアを開けて退室する。
「大本営に送る、ねぇ」
頬杖をつき、初霜が持っていった書類を思い出して提督は口元を歪めた。
――誰の物として、誰に送るんだ。
提督は、大本営なるものを知らない。まったく、知らない。しかし、半月以上もそれで回ってしまっている。まるで問題など無いかの様に、当然歴然瞭然画然と回っている。
――割り込んだ? 奪った……? どうなんだ?
顔を上げ、頭を乱暴にかく。そして、額を二度ほど手のひらで叩いて……初霜の用意してくれたお茶と羊羹を見た。
疲れた頭が糖分を欲しがり、提督はお茶より先に羊羹を口に運ぶ。
――その程度か、僕の悩みは。
口に含み、ん、と彼は首をかしげた。目を閉じ、味わう様に時間をかけて咀嚼してから嚥下し、提督は首を横に振って冷蔵庫を見た。
提督は買い物にも行けない。ゆえに、彼の双眸に映る冷蔵庫の中身は、艦娘達が用意してくれた物だけが入っている。艦娘たちがいなければ、提督はこうやって甘い物も食べられないのだ。
――ご機嫌取りと判子とサインが仕事か。ご立派だぞ、僕。
提督は首を横に振って、窓の向こうにある景色を見た。見慣れた風景だ。そして、窓硝子に仄かに映る自身の姿を見て、目をそらした。
「あぁ、昨日はよく寝られたのになぁ」
何故だかは分からない。だが、その夜提督は久しぶりにゆっくりと眠る事が出来た。まるで誰かが傍で見守っていてくれたかのような、そんな温もりに包まれて眠る事が出来た。だと言うのに、そんな小さな幸せも窓に映った薄くぼんやりとした彼の姿が、提督から奪い去った。
「なぁ、僕は少佐か?」
独り言にしては大きな声で提督は続ける。攻撃的な彩で瞳を染めて、乱暴に椅子の背もたれに寄りかかり、今度は小さく。
「なぁ、僕は新米の、着任したての提督だ。提督なんだ」
大本営も知らず、何かに怯えて自分の階級章も目にしない提督は。
「まさか大将って事は無いだろう? だってそれは――」
呟き、飲み込んだ。
どこかで。遠い遠いどこかで。PCのディスプレイがひび割れた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ