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執務室の新人提督
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、終えた分、大淀さんに預けてきますね」
「はい、お願いします」

 初霜は一礼し、ドアを開けて退室する。
 
「大本営に送る、ねぇ」

 頬杖をつき、初霜が持っていった書類を思い出して提督は口元を歪めた。
 
 ――誰の物として、誰に送るんだ。

 提督は、大本営なるものを知らない。まったく、知らない。しかし、半月以上もそれで回ってしまっている。まるで問題など無いかの様に、当然歴然瞭然画然と回っている。
 
 ――割り込んだ? 奪った……? どうなんだ?

 顔を上げ、頭を乱暴にかく。そして、額を二度ほど手のひらで叩いて……初霜の用意してくれたお茶と羊羹を見た。
 
 疲れた頭が糖分を欲しがり、提督はお茶より先に羊羹を口に運ぶ。

 ――その程度か、僕の悩みは。
 
 口に含み、ん、と彼は首をかしげた。目を閉じ、味わう様に時間をかけて咀嚼してから嚥下し、提督は首を横に振って冷蔵庫を見た。
 提督は買い物にも行けない。ゆえに、彼の双眸に映る冷蔵庫の中身は、艦娘達が用意してくれた物だけが入っている。艦娘たちがいなければ、提督はこうやって甘い物も食べられないのだ。

 ――ご機嫌取りと判子とサインが仕事か。ご立派だぞ、僕。

 提督は首を横に振って、窓の向こうにある景色を見た。見慣れた風景だ。そして、窓硝子に仄かに映る自身の姿を見て、目をそらした。

「あぁ、昨日はよく寝られたのになぁ」

 何故だかは分からない。だが、その夜提督は久しぶりにゆっくりと眠る事が出来た。まるで誰かが傍で見守っていてくれたかのような、そんな温もりに包まれて眠る事が出来た。だと言うのに、そんな小さな幸せも窓に映った薄くぼんやりとした彼の姿が、提督から奪い去った。
 
「なぁ、僕は少佐か?」

 独り言にしては大きな声で提督は続ける。攻撃的な彩で瞳を染めて、乱暴に椅子の背もたれに寄りかかり、今度は小さく。
 
「なぁ、僕は新米の、着任したての提督だ。提督なんだ」

 大本営も知らず、何かに怯えて自分の階級章も目にしない提督は。
 
「まさか大将って事は無いだろう? だってそれは――」

 呟き、飲み込んだ。






 どこかで。遠い遠いどこかで。PCのディスプレイがひび割れた。
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