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執務室の新人提督
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「第一艦隊、揃いました」
「あ、はい」

 背後から聞こえる大淀の声に、提督は隣に立つ初霜へ困惑の視線を向けた。
 だが、初霜は苦笑で提督に返すだけで口を開かない。提督は机の上においてあった帽子のつばをつかみ、適当に頭の上へと帽子を乗せた。
 
「提督、失礼します」

 提督が適当に乗せた帽子に不満でもあったのか。背後の大淀が帽子を調整し、前に回り込んでから一つ頷き、また背後に戻っていった。納得の出来だったのだろう。
 
「あぁ、ありがとう」
「いえ、申し訳ありません」

 提督の言葉に、大淀は一礼する。もっとも、前を向いたままの提督にはその姿が見えず、目にしたのは、今提督の前で横一列にならぶ第一艦隊の艦娘達だけだ。
 
 その艦娘達一人一人の顔を提督は見つめた。
 第一艦隊不動の元一航戦コンビ、艦隊の両目、龍驤と鳳翔。二人は提督と目が合うと、鳳翔は深々と頭を下げ、龍驤はにんまりと笑って小さく手を振った。
 その二人の隣は、特別海域の切り札、北上と大井である。この二人も、提督と視線がぶつかるとそれぞれの反応を見せた。北上は、にんまり、と笑い胸の前でピースをし、大井はすまし顔で腕を組みそっぽ向いた。
 
 それぞれの如何にも、といった返し方に提督は左手で帽子を脱いで、右手で頭をかいた。適当に頭に帽子を戻すと、また大淀がそれを直す。
 
「ありがとう。でも僕は大丈夫だよ母さん」
「いえ、申し訳ありません。あと私は提督の母親ではありません」

 今度は振り返り、大淀の顔を見ながら声を上げる提督に、大淀は綺麗な一礼と否定を返した。自身の首を軽く叩いて、提督は前に向き直る。そして、第一艦隊の残る二人へ目を向けた。
 
 第二水雷戦隊最強、夜を裂く華、神通。
 第一艦隊旗艦、山城。
 
 「……」

 提督は何も言葉にしなかった。
 数日前提督に見せた気弱げな相など欠片も見せず、兵士の顔で海軍式の敬礼をする不動の神通を目にして、提督は得心が行ったと頷く。かつて初霜が語った言葉の意味が、形となって今提督の目の前で片鱗を覗かせているからだ。
 感嘆のため息をもらした後、提督は盗み見る様に山城に目を移した。

 神通の隣で真っ直ぐ前だけを見てぷるぷると震える涙目の山城。提督に何かを言える訳も無かった。言う権利も無かった。
 なぜかと言えば、この編成を考えたのは、提督だからだ。
 
 ――昔の名残なんだろうなぁ……こんな事になるなんて思ってなかったから、こんな事やってたんだなー。僕は。平然と、残酷に。
 
 まだ提督になって日の浅かった昔日の自身を思い出しながら、彼はその能天気そうな脳裏の自身を数度殴っておいた。その程度の権利はあるだろうと考えながら。
 
 提督曰くの"昔の名残"だろうか。大淀
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