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を閉じると今度はクローゼットに向かった。目の前のそれを静かに開け、吊るされている提督の服を一つ一つ確かめていく。
「うーん……これは初霜、これは初風……こっちは……あぁ、球磨姉さんね」
アイロンをかけた艦娘の名前だろう。それぞれの癖を見取った大井は、これならよしと頷いてクローゼットを閉じた。
ちなみに、駄目だしが出た場合、大井がその場でアイロンをかけ直す。嫁としての能力は意外と高い大井のだ。ただし嫁としての人格は保障しない。
その後も、大井は箪笥の中を確かめ、箪笥の中の提督のシャツの匂いを確かめ、箪笥の中の提督のハンカチの匂いを確かめ、箪笥の中の提督のタオルの匂いを確かめ、重労働によって額に流れた汗を手の甲で拭って、ふぅ、と息を吐いた。
「さて……と」
呟き、大井は提督の枕元へ音も無く歩いていく。未だ何事にも気づかず、否、今回もやはり気づかず、提督は眠り続けていた。
「……」
大井は無言のまま、枕元に正座をして提督の顔を覗き込んだ。語らず、動かず、本当にただじぃっと。
やがて、満足したのだろうか。大井は袋からデジカメを取り出し、それを提督の寝顔へ向けた。シャッターを切ろうとした瞬間――彼女はそれを止めた。
それまで穏やかだった提督の寝顔に変化が生じたからだ。デジカメを投げ捨て、大井は提督の顔をあわてて覗き込んだ。提督の相にあったのは、かつて大井にあった何かだった。それは大井の勘違いで、思い込みかもしれない。だが、大井はそう感じた。
――居場所が無かった頃? 提督?
大井は目を見開いた。そうではないか。提督には皆が居る。艦娘達が居て、その中心には絶対提督がいるのだ。だというのに、大井の目に提督の貌は昔日の自分を見せたのだ。
大井は戸惑うように手を伸ばし、提督の頬を撫でた。温もりで癒せる物であれば、そう思っての事だ。それまで、決して提督には触れなかった大井が、初めて提督に触れた夜でもあった。
――大丈夫、大丈夫……
起きそうにない提督の額に手を当て、大井は提督の寝顔を覗き込んだ。すこしばかり苦しそうな提督の相は、まだ晴れない。
「ここにいますよ。ここに、居ます。私が、居ます」
小さな呟きは、誰も知らない。
雲に覆われた月夜の世界は、執務室を深海の底へと誘っていた。
その影は、ただ二人廊下を歩いていく。
廊下の窓から見える空は青く、燦々と輝く陽の光があらゆる物を照らしていた。
「あー……大井っちー、私ら最近暇だねー」
「平和な証拠ですね、北上さん」
「だねー」
飴でも口に含んでいるのだろう。北上は頭の後ろで手を組みながら、口をもごもごと動かして歩いていく。その隣に、大井
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