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るバイザーを少しばかり動かして口を開いた。
「青葉。あんたは重巡洋艦娘や。うちらよりよっぽど汎用性が高い」
青葉を見上げる龍驤のその瞳は、波一つ無い水面のようで、青葉は自身が今どこに立っているのかさえ忘れた。
「夜戦ともなれば、あんたらは艦隊の火力の要や。それにな――」
龍驤は抱えていた袋を青葉におしつけ、青葉に良く似た顔で笑った。
「提督は、あんたの作る新聞、よう見とるで。十把一絡げなんてのは、あらへんあらへん」
ひらひらと手を振って龍驤は青葉に背を向けた。
青葉は龍驤の背が視界から消え去るまで見送ってから、まだ暖かく、少しだけ重い手にある袋の中を見て、首を横に振った。
「こんなに食べるつもりだったんですか、龍驤さん……」
てくてく、と龍驤は道を歩いていく。鎮守府の中なら全て記憶している彼女である。なんとなく歩いているのだろうが、そこに迷いは見えない。どこに出ても戻れる故の強みだろう。
――あれで、青葉は曲がるやろかなー。
自分で考えて、すぐさまそれはないと打ち消した。青葉もまた、自身のあり方を自身で形成した艦娘だ。重巡洋艦娘一の古参である青葉が、簡単に曲がると龍驤は思えなかった。
青葉が問うてきたその内容を思い出して、龍驤は肩をすくめた。
理解は、出来る。痛いほどに、龍驤には理解できる。青葉が重巡洋艦娘初の艦娘であるように、龍驤もまた軽空母の――と言うよりも、提督の艦隊初期の艦娘だ。
だが、戦場には流れがあり、戦闘には要所がある。四路あれば五動がある。
――時期尚早、やと思うんやけどなー、うちは。
龍驤は進む事も退く事も左右に行く事もやめ、待つ事を選んだ。青葉や龍驤のように、違和感に気づいた艦娘達の多くは、龍驤に倣っただろう。青葉だけが、動いてしまっている。
龍驤は鼻を鳴らして、近づいてきた建物を見た。龍驤の視線の先にあるのは、間宮の食堂である。
乱れることなく、てくてく、と歩みを進め扉にてかけて
「あ、初霜やん」
背後に振り返って声を上げた。
「はい、どうも、龍驤さん」
慣れているのだろう。突如振り返って声をかけていた龍驤に、初霜は平然と挨拶を返した。
「なんや、今からお昼なん?」
「はい、これからご飯です」
「そかそか」
ふんふん、と頷きながら龍驤は初霜を見た。黒いブレザーも、陸上では穏やかな顔も、何もかもが常の通りの、龍驤が良く知る初霜だ。
「龍驤さんも今からですか?」
「まぁ、せやねん。ちょーっと用意しとったお昼を、狼さんにとられてなー」
龍驤が自身の腹を叩きながら口にした言葉に、初霜は瞬かせ口元を手の平で覆った。
「え、足柄さん?
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