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――あぁ、眠い。
窓からさす光から逃げるように、提督は少しばかり奥まった所に設置された洗面台へとよたよたと近づいていった。
備え付けのコップに入れてある青い歯ブラシを手に取り、同じくコップに入れてある歯磨き粉を持ってキャップをあける。ひねり出したそれを歯ブラシに乗せ、提督は無造作に口に突っ込んだ。
右手で歯ブラシを動かしながら、左手で頭をがりがりとかく。洗面台の正面につけられた鏡には、寝ぼけ眼の男と、その提督の背後にあるガラス戸を映していた。
――あぁ、風呂の掃除もしないとなぁ。
背後へと振り返り、提督は本来執務室には無いはずのバストイレを眺める。そして再び洗面台へと向き直り、彼はコップを手にして蛇口をひねった。
口をゆすぎ、歯ブラシとコップを洗い、水をきってから置いてあった定位置に戻す。
――定位置、ねぇー。
口の端を僅かに吊り上げてから、提督は首を横に振ってまだ水を出したままの蛇口に両手を出した。水をすくってそれを顔に叩きつけ、それを何度か繰り返して顔を洗う。
――あ。
しまった、と思っても後の祭りだ。顔から滴り落ちる水を拭う為のタオルが、彼の手元にはないのである。
――馴染んでないのか、間抜けなだけか。
胸中で呟いて、さてどうした物かと提督が悩んでいると、その頭にふわりとタオルがかけられた。提督は一瞬身を強張らせ、正面の鏡を覗き込んだ。
「早く顔を拭いてよね。私だってお腹すいているんだから」
青い髪の少女が、提督の後ろに立っていた。
陽炎型七番艦初風。
陽炎、不知火、黒潮の妹であり、あの浮沈艦雪風の直ぐ上の姉である。
――昨日が朝潮型で、一昨日が白露型だったから、今日は陽炎型で……明日は夕雲型かー。
ぼうっとしたまま、提督は陽炎型七番艦の動きをなんとはなしに目で追っていた。
初風は来客用、という事に一応なっている執務室のテーブルに持ってきた弁当を広げ、それが終わると今度は提督着任の翌日に備え付けられた小さな冷蔵庫からお茶を取り出し、提督のコップ、それと自分のコップに適量を注いで戻ってきた。
提督、そして自分の前にコップを置いて、ソファーに腰を下ろして……
「はい、いただきます」
「あ、はい。いただきます」
持って来た弁当を食べ始めた。
初霜は秘書を務めている事もあって、食事を一緒することは無いが、他の艦娘が弁当のお届け当番なる物になった場合は、今の初風の様に一緒に食べる事になっている。のであるから、この状況はなんらおかしな物ではない。
であるのに、提督は自分の弁当と初風の弁当を見比べたりするばかりで、手に持っている箸を動かす気配が無い。
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