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今回提督からお願いされたそれは、未知のものである。
「時間が無い時には、便利なんですけどねー」
大淀とは違い、何度か口にしたことがある明石は、それにしても、と呟いた。
「欲しいもの、でこれが出てくる辺り、あの人はなんというか、なんというかですねー」
表現に困る人物だ、という事だろう。大淀はその言葉に大いに賛同し、大きく頷いた。
「で、どんな時にこれかって言うと、やっぱり時間が無い時とかですね、あとは――」
「その答えなら、私がしってるわよ!」
明石の言葉を遮り、深夜にはちょっと出すべきではない声量で大淀と明石の前に現れたのは、籠いっぱいにビールとあたりめを入れた赤い芋ジャージ姿の足柄だった。
「飲み会ですか?」
「いいえ、一人酒です」
大淀の質問にタイムラグ無しに答えた足柄の相は、ひどく穏やかな悟りを開いた物であった。
「私の事なんかどうでもいいでしょ?」
「いえ、割と気になります」
「きにしないの!」
「あ、はい」
大淀の返事に、足柄は腕を組んで自身の豊満なバストを強調する。芋ジャージ姿で行われたそれに何の意味があるのかは、飢えた狼さんにしか分からない。
「男って生き物はね、レアな物に惹かれるところがあるのよ」
「レアなもの、ですか?」
明石はレジ打ちもやめて、足柄の言葉に耳を傾ける。売り手としては、何か思う事がある言葉だからだろう。
「そうよ、一人暮らしをしてインスタントばっか食べてると、レアな――手作り料理が欲しくなる」
「はぁ」
一流シェフも絶賛、と称される間宮の食堂で一日三食を済ませる大淀にとっては、理解できない物で、気の抜けた返事しか出来ない。
「逆に、手作り料理ばっかり食べてると、今度はインスタントが欲しくなるのよ」
腰に手を当て、ドヤ顔でふふんと笑う足柄に、明石が言う。
「で、それはインターネットで?」
「……男心をつかむ100の方法とかいう本ですごめんなさい」
「足柄さん……」
礼号組仲間の何ともいえない姿に、大淀は泣きそうになった。
「でも、提督ったら欲しい物、でこんなの要求したのね。失礼しちゃうわねー」
「あ、そこから聞いてたんですね、足柄さん」
「う、うん、会話に入り込むの、ちょっとどのタイミングで行こうか迷ってから……」
「足柄さん……」
大淀は眼鏡を外して目元をハンカチで拭っていた。
「やめて、やめてくださいお願いします。そういうの自分が惨めになっちゃうからやめて」
明石は、そう言って俯く足柄の手にある籠の中身を何も言わずレジ打ちし、サービスの一つもあげようと思う優しい気持ちで胸中が一杯になった。
「しかし、そうですか」
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