そこから
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「はい、これお願い」
「はい、じゃあこちらをお願いします」
「あ、うん」
書類が、さらりと交わされる。
まるで流れるような作業は一切の淀みもなく、人が見ればその行為は今執務室に居る二人の間で長く交わされた物であると思う事だろう。
だが、実際は違う。
「……うん、これなら大淀さんが見ても大丈夫だと思います、提督」
「そっかー……ありがとう、初霜さん。早く仕事が出来るようにならないとねー……」
「いえ、ここに着任されて半月でこれなら、十分ですよ?」
僅か、と言うべきかどうか判然とはしないが、そう長くもない時間である。あるのだが、"提督"と呼ばれた20を幾つか過ぎた程度の年若い男と、"初霜"と呼ばれた、男よりさらに年若い――と言うよりは、幼いと言うべき――少女の間で、"仕事"という時間は半月の間、特に濃く、実に重く流れた。
人は少しの時間でも、苦楽を共にすれば親しく、または相互に信頼を得るのだが、この二人は特にそうだった。
「んんー……」
提督と呼ばれた男が椅子に座ったまま、背もたれにもたれかかり、両手を突き上げて背伸びをすると、少女は目を細め微笑み、いつの間にか用意していたお茶と、適度に切られた羊羹を提督の前に置き、書類を軽く片付けた。
「少しばかり休みましょう。もうお昼時ですし」
「あれまー……もうそんな時間かぁ」
背伸びをした際に滲み出た涙を指で拭いながら、男――提督は初霜の言葉で室内に備え付けられた壁掛け時計を見上げた。確かに、時刻は昼を少しばかり過ぎている。
提督は頭を軽く掻いて、初霜に頭を下げた。
「集中し過ぎた。申し訳ない」
「いえ、お仕事ですもの」
「……」
微笑んだままの初霜に、提督は口をへの字に曲げて甘えてみせた。
「初霜さん、お昼ご飯だよ」
「そうですね」
「そうですね、じゃないよ?」
「そうなんですか?」
さらりさらりと言葉と時は流れていく。至極当然、さも瞭然と。
「僕はいいんだ、初霜さん。お昼ご飯の時間だよ。お姉さん達と食べておいでよ」
「……姉さん達、まだ食堂にいるかしら」
首を傾げる初霜に、提督は目前の少女とよく似た微笑を相に浮かべて返した。
「君達は皆仲がいい。例え初霜さんのお姉さん達が居なくても、霞さんや雪風さんに朝霜さん浜風さん、ことによっちゃあ那智さん羽黒さん、矢矧さんか伊勢さん日向さんが居るかもしれないよー」
少女と特に仲が良い名前を提督の口から出たからだろう。初霜は小さく頷くと
「では、お言葉に甘えさせて頂きますね」
「そりゃあ、こっちのセリフだよ」
手をひらひらと振る提督に、初霜は苦笑を一つ浮かべながら一礼し、部屋から退室していった。
一人分の温
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