5部分:第五章
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第五章
「俺にとっちゃ勉強なんてどうでもええんや」
「いつも同じこと言うな」
「ちょっとは進歩しいや」
「だからや。そんなん名前が書ければええ」
これだけにこだわっていた。
「そやけれどな。ボクシングはちゃう」
「それで食うつもりかいな」
「食うのはお好み焼きでや」
もう一つの生きがいも出す。
「しかしや。ボクシングはや」
「何や?」
「俺の夢や」
今度はヒンズースクワットをはじめた。試合の後でもいつものトレーニングだった。
「これはな。俺の夢や」
「何になるつもりや?」
「決まっとるやろ」
こう譲に返した。
「チャンピオンになるんや」
「チャンピオンか」
「そや、世界チャンピオンや」
スクワットでさらに汗をかきながらの言葉である。
「世界チャンピオンになる。だからや」
「ボクシングやってるんやな」
「拳一つで世界を掴む」
言葉が確固たるものになっていた。
「これからな」
「アホみたいな夢やな」
「空想し過ぎや」
譲も沙耶もそんな兄の言葉をばっさりと切り捨てた。
「そんなんできるかいな」
「精々学校のチャンピオンやろが」
「言うな、おい」
今の言葉は守にとっては聞き捨てならないものだった。
「俺が負けるっちゅうんかい。今まで無敗の俺に」
「じゃあ今度の全国大会どうするんや?」
「優勝するんかいな」
「当たり前やろが。やっと出るんや」
強い言葉だった。
「一年では試合よりまずトレーニングやった」
「ああ」
この学校ではかなり素質があっても一年の間はみっちりとトレーニングを積んでいくのが方針なのだ。だから彼は大会に出ていなかったのだ。
「二年は残念やったけれどな」
「折角大阪府じゃ優勝したのにな」
「盲腸なんてな」
「無念やった」
そういう事情があったのだ。だから彼は二年の時は全国大会には出ていないのだ。急性盲腸だったのでどうしようもなかったのだ。
「けれどや。その無念を越えてや」
「今度は交通事故かもな」
「車には注意しいや」
「御前等ちょっとは応援せんかい」
あまりにも冷たい彼等の言葉に遂に切れた。
「それが兄貴に言う言葉か」
「兄貴やから言うんや」
「そやで」
ぶしつけな感じの返事だった。
「他の人間にこんなん言うかいな」
「失礼やろが」
「俺やったら失礼ちゃうんか」
そんな彼等の言葉に内心かなり腹が立った。
「何ちゅう奴等や、全く」
言いながら今度は腕立て伏せをはじめた。汗が床に滴り落ちる。
「それでや。その大会やけれど」
「ああ」
「何時やった?」
「確かもうすぐやったよな」
「もうすぐももうすぐや」
守の言葉は不意に妙な感じになった。
「来月や」
「そやからトレーニングも何時に
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ