十三話:幸せとは
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力があった。
これだけはあってはならなかった。絶対に人を幸せにできない男の傍に居ることを選ぶなど。
決してあってはならなかった。だというのに、彼女は選んでしまった。
この世で最も過酷な道そのものに幸福を見出してしまった。
余りの絶望感に切嗣はがっくりとうなだれてしまう。
「……どうしてだい。どうしてそんな碌でもない道を選んだんだい? 全ての幸福から背を向けて。全ての悲しみを飲み干す道を、どうして選んでしまったんだい?」
「切嗣……お前は鈍感なのか? そうでないのなら私も少し怒るぞ」
切嗣がこの期に及んで理解しようともしないことに少し眉を寄せるリインフォース。
対する切嗣と言えば、何を言っているのかが分からずに彼女を見上げる。
そう言えば今の彼の自己評価は最低を通り越してマイナスに行っていたのだと思い出して彼女は少しため息を吐く。
リインフォースは埒があかないのでストレートに言ってしまう。
「簡単なことだろう。私は一人の女性として―――お前を愛しているからだ」
少しばかり恥ずかしかったのかほんのりと頬を染めるリインフォースとは対照的に切嗣の表情はまさに顔面蒼白といったものだった。
それもそうだろう。彼を誰かが愛するということは。彼が誰かを愛するということは。
―――最後には愛する者をその手にかけなければならないということなのだから。
「……ダメだ。君は僕を愛してはいけない」
「『僕は契約通り、君が人としての幸せを見つけ出すまでの手伝いをする。それが、僕の思い描く幸福と違っても止める権利はないから安心してくれ』確かお前はこう言っていたが?」
「違う…っ。違うんだ! こんな僕に君を愛する資格も愛される資格もあるものか!」
頭を左右に振り、必死に否定の言葉を言い続ける。
しかし、それは彼が彼女の愛を拒むだけの理由とはならない。
故に彼女は微動だにせず彼を見つめ続ける。
「だって、僕は必要になれば、名も知らない誰かの為に……愛する君を殺してしまうッ!」
だから、自身には愛する資格も権利もないと続けようとしたところで彼女に頬を撫でられる。
そして、自覚する間もなく一つ、どこまでも慈愛に満ちた口づけをされていた。
呆然とする切嗣をよそにリインフォースは聖女のような笑みを向ける。
「それでもいい、それでも構わない―――お前を愛せるのなら」
その言葉に感じたこともない感情が切嗣の胸の中に沸いてくる。
自然と彼自身も気づくこともない柔らかな微笑みが零れる。
彼はもうこれ以上言っても無駄だと悟り、柔らかな声を出す。
「とんでもない愚か者だ……君も、そして僕も」
「そうだな。私達はとんでもない愚か者だ」
二人で笑い合
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