巻ノ二十六 江戸その十三
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「やはりな」
「かつては武田家の下栄えていても」
「今はこの様になるとは」
「まことにわかりませぬな」
「人の世は」
「そうじゃな、家は滅び国は残っていても」
そして民達もだ。
「心が消えたりもする」
「それが世ですか」
「全ては変わっていき」
「栄え衰え消える」
「そうなりますか」
「そしてまた出て来る」
こうもだ、幸村は言った。
「生まれ変わったりしてな」
「では甲府の民の心も」
「また戻る」
「そうなりますな」
「そうじゃ、武田家はなくなったがな」
このことをだ、やはり残念に思い言う幸村だった。
「民の心はまた戻る」
「そして賑わいも」
「それも戻りますな」
「そうなる、それでじゃが」
幸村はあらためて家臣達に言った。
「何か食するか、そしてな」
「この甲府で、ですな」
「宿を取りますか」
「そして一泊しますか」
「そうしようぞ、信玄様は蒲萄を植えだしておられた」
幸村はここでこの果物の名を出した。
「甲斐には前よりあったがな」
「特に、ですな」
「信玄様からですな」
「蒲萄が大いに植えられていった」
「左様ですな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「だからな」
「ここでは蒲萄ですか」
「それを、ですか」
「食しようぞ、これよりな」
こう言って甲斐でも食を楽しんだ、そうしたことをしてだった。
一行は旅の終わりに近付いていることを実感しながら甲斐での旅を行っていた。今は主のいないその国で。
巻ノ二十六 完
2015・10・2
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