巻ノ二十六 江戸その十二
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「世は乱れかねぬ」
「高い立場の方がその様なことをされては」
「世は乱れますか」
「では崇伝殿は、ですか」
「よくない方ですか」
「そうした御仁は止めねばならぬ」
幸村は強い声で言った。
「天下、そして義の為にな」
「ですか、謀も様々で」
「その中では謀も様々で」
「邪な謀は使ってならぬ」
「そうなのですな」
「そうじゃ、決してあってはならぬ」
こう強く言う幸村だった、そうした話をしながらだった。
一行は甲府に来た、かつて武田家の拠点があったまさにその場所に。街は落ち着いているがその雰囲気はというと。
「何か」
「ぽっかりとしていますな」
「人はいますが心はない」
「そうした感じですな」
「そうじゃな」
幸村もその何処か空虚な町の者達を見て言う。
「かつては違ったが」
「この町も活気があり」
「賑わってたのですな」
「そうであった、武田家のお膝元としてな」
まさにその場所として、というのだ。
「賑わっていたが」
「今も店はそれなりにあり」
「人も多く商いもしていますが」
「しかしどうにも」
「活気がありませぬな」
「ただ人がいて動いているだけです」
「ただそれだけです」
家臣達も言うのだった。
「どうにも」
「柱がない」
「心がないといった感じですな」
「武田家が滅び織田家が去り」
幸村は家臣達に応えて述べた。
「今は主がおらぬからな」
「そうした場所になっているからですか」
「この甲府はこうなっていますか」
「空虚で心のない街に」
「そうじゃ、この状況はまだ少し続くであろう」
こうした予想もだ、幸村は話した。
「主がおらぬ限りはな」
「どうやら徳川家が入りそうですが」
「徳川家が入るまではですか」
「こうした有様ですか」
「虚ろですか」
「そうじゃ、それは仕方ない」
甲府が今虚ろな様になっていることはというのだ。
「まだ荒れておらぬだけましじゃ」
「甲斐はついこの前まで随分と荒れていて」
「甲斐の守護に入った川尻殿が殺されていますな」
織田家の重臣の一人であり信長の腹心の一人だった、だが本能寺の変の後の混乱の中甲斐の地侍達に殺されたのだ。
「その頃は随分酷かったそうですが」
「それでもですな」
「今は落ち着いている」
「それだけましですか」
「そうじゃ、虚ろでも乱れるよりはいい」
そちらの方がというのだ。
「まだな」
「ですか、では」
「今はこのままで」
「新たな主が入るのを待つ」
「そうするしかありませぬか」
「そうなる」
幸村は何処か悲しい顔で家臣達に答えた。
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