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6部分:第六章
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第六章

「わかったな。じゃあ砂を取っていけ」
「砂を」
「ああ、折角甲子園に来たんだからな」
 生徒達に対して言った。
「だからだ。わかったな」
「はい」
 彼等は先生のその言葉に頷いた。まだ悲しくて仕方がなかったがそれでもベンチの前に出た。そうして砂を集めるのだった。
 だが達明はまだ泣いていた。泣きながらずっとグラウンドにうずくまっている。先生はそんな彼の側に来て声をかけるのだった。
「久保田」
「すいません」
 彼は泣きながら謝ってきた。
「俺のせいで」
「悔しいか」
「はい」
 泣きながらまた答える。
「俺のせいで。俺のエラーのせいで」
「いや、それは違うぞ」
 しかし先生はこう彼に言うのだった。
「えっ!?」
「御前だけじゃない。御前の力だけで負けたんじゃないんだ」
「俺だけじゃなくて」
「先生はいつも言ってるよな」
 真正面を見据えての言葉だった。そこには一点の曇りもない。
「野球は何人でするものだ?」
「そこにいる全員です」
 先生は野球は九人でするものだとは決して言わない。そこにいる全員でするものだと言うのだ。それをここでも言うのであった。
「皆で」
「そうだ、その通りだ」
 またその言葉に頷く。
「だからだ。この試合は皆が負けたんだ」
「皆が」
「それにだ」
 先生はさらに言う。
「誰もが必死に試合をした」
「皆が」
「そうだ。御前は手を抜いたか?」
「いえ」
 その言葉には首を横に振った。それだけはなかった。彼は必死に試合をしていた。それだけは本当だった。自分には嘘はつけない、だからこそ言えることだったのだ。
「それは」
「ないな。真剣だったな」
「はい」
 またその言葉に頷く。
「それでいいんだ。御前は必死にやった」
 先生はそれをまた言うのだった。
「それは確かだ。だから」
「はあ」
「今は確かに泣きたいだろう。しかしな」
「しかし?」
 先生の言葉を聞かずにいられなかった。先生も真剣に達明に話していた。それもわかる。だからこそ耳を離すことができなくなっていたのだ。
「恥ずかしくない試合だった。だから胸を張れ、いいな」
「胸をですか」
「勝つことも大事だ。しかしな、勝つ人間がいれば負ける人間もいる」
 当然のことだがそれをあえて見ずに勝つことだけを見ている人間がいる。しかしそうではないと。今先生は言っているのだ。
「大事なのは負けても誇りを持てることだ」
「そんなことが。できるんですね」
「できる」
 先生はまた言う。
「絶対にだ。しかしその為には」
「真面目にやって」
「全てを出し切れ。いいな」
「わかりました」
 その言葉は達明の心に刻み込まれる。まるで魔術のように。
「じゃあ俺、また」
「またここ
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