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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 2
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事を前にして現実逃避を続ける程度には甘えてんでしょうよ。其処には気付かなかったのか。
 「師匠達は私に「よく頑張った」と何度も仰ってくださったけど、あれは」
 「厄介払い。若しくは頑張る方向を著しく間違えてたあんたへの慰め。あんたは全体的に不器用なんだから、まずは自活能力の向上を図るべきだわ。よたよた歩きの雛が一人前に翔べると思う? 飛び上がっても即落下して、打ち所によってはそのままおしまい。ま、あんたはそれでも良いんだろうけど?」
 「……」
 黙り込んで積んだ木を見つめるカールは、さて、何を考えているのやら。
 とりあえず、今の言葉で大体の事情は読めたわ。
 こいつの自信の無さは周囲の諦めの所為ね。
 筋金入りの不器用さに付き合い切れなくなって、ならばと面倒を避けさせようとした。
 こいつ自身はどんな形でも立ち向かおうとしてたんだろうに、周りがそれを否定したおかげで努力の価値観を見失ってる。
 ったく、物臭共め。
 せめて、歌に関する意識だけでも長所として伸ばす工夫しときなさいよね。折角の良音が濁ったら勿体無いでしょうが。
 こんなドジと鈍さのお手本じゃ、投げ出したくなる気持ちはとーってもよく解るけど!
 「とにかく、今日はもう暗いし、柵作りは明日に回しなさい。で、今からはこれを食べる準備。」
 「これ? ……って、動物!?」
 カールの足元に放り投げたウサギの死体は、カールがちまちま木を切ってる間に私が狩ってきたモノ。
 かつて私が殺した人間の所有物だった伐採道具を両手に握り、顔に ぎゃあ と書いて全身を竦ませるヘタレ。
 この反応……まさか、狩りの経験も無かったとは。
 「びびってんじゃない! 私は必要無いにしても、あんたは食べなきゃ死ぬでしょうが。自分で捌いて自分で焼いて、ちゃんと食べるの。早くしないと、血の匂いに釣られて大型肉食獣が来るわよ!」
 「で、でも」
 「あんた、肉を食べたコト無いの?」
 「……城下街で何度か……」
 「捌いた経験も無いのね……」
 顔面蒼白で力無く頷くカールを見てると、何処の箱入り娘だあんたは! と突っ込みたくなる。
 こいつ、本当に「村」出身なの?
 狩りと採取は、村の人間にとって必要最低限の生活術でしょうに。
 「仕方ない。今回だけは一緒に捌いてやるわ。ちゃんと覚えるのよ。でないと、生肉を無理矢理口に詰めてやるから。急いで枯れ枝を集めてきなさい」
 「わかった……」
 怯え、躊躇いながら木々の影に溶ける背中を見送り……深い溜め息が溢れ落ちた。
 人間の男って、もっと図太い生き物じゃなかったっけ? 死んでも良いとか言っといて、何? あの線の細さ。頼りなくて情けなくてみっともない……
 のに、歌は良いのよ。歌だけは。
 詐欺でしょ あれ。
 なよなよでひょ
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