暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 2
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 葉っぱも無い古木が一本、目の前でミシミシ……と悲鳴を上げながら倒れていく。
 腰ほどの高さから裂けたそれはゆぅーっくりと傾いたにも拘らず、何故か断裂させた男……カールの背中にドサッと乗っかった。
 「いったたた……あ、見て見てグリディナさん。完全には折れてないから、挟まっただけで済んだみたい。今度は自分で出られそうだよ」
 カールは、よいしょっよいしょっと地を横に這いつつ古木の根元へ、もう少しで抜け出る所まで移動した。
 が。
 「はぎゃっ!」
 起き上がろうと姿勢を変えた瞬間、皮一枚で繋がっていた木に思いっきりぶつかってとどめを刺し、両手両足を反り返らせる無様な格好で呆気なく潰された。
 「……よく判った。不器用はあんたの特性だったのね。おめでとう。人間に特性が無いというこれまでの常識は、あんたの存在を以て見事に覆されたわ」
 「あうぅ」
 陽が沈む前に肉食獣避けの柵だけでも作っておけと言ったのに、この男ときたら……もうすぐ夕暮れの今になっても伐採すら終わらないなんて。
 このままの進行速度じゃ、裁断を始める頃には真夜中よ? 非力な人間のクセに危機管理甘過ぎでしょ。
 呆れて物が言えない。
 「この程度も満足にできないで、よくもまぁ生きてこられたわね。楽器以前の問題じゃない」
 カールの横幅程しかない胴回りの古木を片手でひょいと持ち上げ、伐って積んだ他の木の上に放り投げる。
 これで通算四本目。
 その総ての下敷きになったカールのぼろ服は、枝に引っ掛かり、小石で引き裂かれ、地面で擦り切れ、防御能力を完全に喪失してる。服の体裁すら保っているとは言い難い。ズタボロだ。
 「また除けてもらっちゃった……ありがとう。うん、村の皆にも笑われてたよ。お前は村を出たら一年以内に死ぬ。と言うか自滅する。生活能力無さ過ぎて手の施しようがないんだから、頼む。ジッとしててくれ。って」
 村人達、苦笑で苦悩してたんだろうな……。
 体を起こしながら笑ってはいるけど、所々赤く染まった布の隙間から覗く白い肌は、浅い切り傷と刺し傷だらけだ。
 筋肉の無さや色白さが妙に痛々しい……って、悪魔に同情させないでよ! 腹立つわね!
 「でも、村を出て六年経ってるし。案外何とかなるものだね」
 周りが何とかしてやってたのよ、絶対!
 「何とかなるとか、何とかなったってのは、何とかしようとしてるヤツか、何とかしようとしたヤツの言葉でしょうが。不器用さに甘えていつまでもヘタレてんじゃないわよ」
 「!」
 「なによ?」
 「……ううん、ちょっと驚いただけ」
 手に付いた砂埃を払い落とす私を、立ち上がったカールが凝視する。それからパッと俯いた。
 「そんな風に僕を叱る相手、今まで居なかったから。そうか……甘えてるのか、僕」
 やらなきゃいけない
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ