前編 重力戦線異状なし
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ンガとか映画とかでよくあるよね! だとか。
身分不明の少女に対する職務質問のようなものかと思っていたが、もしかして、これはいわゆるナンパというやつなのか。
暴漢たちをこんな路地裏まで追いかけるわりには彼らが尻尾を巻いて逃げるのを見過ごしたり、どころか仕事をほっぽり出して年端もいかない娘を口説こうとしたり、この男の職務態度が良いのか悪いのか、判断に困るところだ。
今にして思えば、このお調子者の警務官『シドー』との出会いは、間違いなく私の人生のターニングポイントだった。
――良い意味でも、悪い意味でも。
「……い。おーい。起きてくださーい、眠れる重力のお姫様ー」
ふざけたモーニングコールで過去から引き戻される。
「よく眠れた? 起こしておいてなんだけどさ」
「……うん。懐かしい夢を見てた」
わたしを現実に連れ帰したのは、夢にも現れたシドーだ。
周期的にやってくる揺れが心地よく、つい眠ってしまったようだ。
今、わたしたちは電車の個室の中にいる。
悪夢に飛び起きシャワーで気分転換した後、眠れる気分じゃなかったからここ数日分の新聞をのんびり読んでいた。
空が白み、人の往来がちらほら感じられるになった頃合い、朝一番といってもいい時間帯にシドーが訪ねてきた。
――体調悪いのは知ってるんだけど、こんなこと、キトゥンにしか頼めなくってさ。
いつものように軽口を叩く彼の顔は、いつになく暗かった。
詳しくは電車の中で話す、とか、緊急事態なんだ、とも言っていたような気がするが詳しくは覚えていない。
初めて乗った電車に浮足立っていたような気もするが、それも覚えていない。
というのも、電車には前から興味はあったが、ペットの同伴が禁止されているせいで乗れなかったからだ。
猫もどきは一応ペットに分類されるらしい。
今回は警務隊のシドーが運転手さんにお願いして、ケージから出さないなら、という条件付きで乗車させてもらった。
「もうすぐ着くから、その前に説明しておこうと思って。内密の話だから、ここが個室なのも都合がいい」
そう言って、シドーはファイルから数枚の紙を取り出す。
「最近、重力船が立て続けに行方不明になっている事件は知ってる?」
首肯する。
ここ1週間ほど、世間はこの事件で持ちきりだ。
上空という地形上、空を自由に移動できる重力船はヘキサヴィルの物流、人の移動手段において重要な立ち位置にある。
原因不明、容疑者不在のこの事件は、市民の不安の種となっている。
「いろんな重力船が連絡も通報もなく、いきなり消えちゃうんだっけ」
「そう。お使いに行った船が返ってこない。定時に来るはずの船がこない。民間、公共問わずあらゆる重力船が霧のように姿を消す……」
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