前編 重力戦線異状なし
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器ばかりだったからだ。
半ば反射的に体が動いた。
黒猫もどきのダスティのおかげで、身体10個分ほどもある高所から落下しても平気だった。
落下時の衝撃を、重力を反転させて相殺したのだ。
警務官の男がたまらず閉じた目を開けるころには、わたしはあっという間に悪漢たちを片付けていた。
普通は予想できない上空からの不意打ちではあったが、これほど鮮やかに大の大人をのしてしまえるあたり、記憶を失う前の自分の素性になおさら興味がわいてきた。
とはいえ、さしあたっては目の前の警務官だ。
「はぁ〜たすかったよ! 逃亡中の暴漢を追いかけてて……で逆に囲まれちまって……」
危機を脱し余裕を取り戻したらしい警務官は、身体のほこりを払い、
「と、ところでさ。いったい何者?」
意図的に無視したわけではないが、彼の背後にある張り紙に目を奪われ、あまつさえその身体を押しのけてしまう。
張り紙に描かれている少女には見覚えがあった。
カラスのような黒い衣服。
赤いメッシュ。
重力使い、という二つ名。
わたしが後を追っていたあの黒衣の少女は『クロウ』という名前だという。
それも、さっきの暴漢たちとは比べ物にならないほどの悪人とされているらしい。
しかし、その割には、彼女はあの屋上で身分の高そうな男と何やら短い話をしていたが……
話の内容が分かるほど近くにいなかったし、そもそも聞き取れていたとしてもわたしには半分も理解できなかっただろう。
自分のことだって何一つわかっていないのだから。
「ちょ、ちょっと君――」
警務官の男が諦めず声をかける。
先ほどの男たちはチャンスとばかりに空き地に逃走していったが、この男は仕事などお構いなしとばかりにわたしに興味津々だ。
「君、ここでなにしてるの? 何でここにいるの? どこから来たの?」
一度にまとめて質問されたせいで、思わず言葉に詰まる。
「あ、いや……それを知りたいのはわたしの方と言うか……」
「はぁ?」
遠回しな言い方をしてしまったせいで、男は首をかしげる。
クロウの張り紙をはがし、眼前の警務官に突き付ける。
「――だから! 『わたし』が誰で、何で、ここ、にいるか自分でもわかんないんで困ってるんです! だからこの女の子なら知ってると思ったんです!」
語気を強めてしまったのは、それが切実な問題だったからだ。
だが、警務官はそれにひるむことも不快感を表すこともなく、より熱心にわたしに話しかけてきた。
「もしかして君はあれ? あの、いわゆる記憶喪失ってやつ?」
答えようとするが、男は流れるような、あびせかけるようなマシンガントークでわたしの気勢をそいでゆく。
そういうのってカッコよくない? だとか。
マ
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