前編 重力戦線異状なし
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はじめは素材どうしの繋ぎ目からお湯がもれたり、ヘッド部分が外れて頭にこぶを作るはめになったりしたが、そういう失敗も良い思い出、この家から離れられない理由の1つとなっている。
記憶のないわたしは、だからこそ、これまでに積み重ねたものを手離すのをひどく恐れていた。
悪夢にうなされていた当時のわたしは、そんな自分の弱さに気づかなかった。
誰にだって多少なりとも存在する、心のもろいところに。
重力姫と褒めそやされていたって、わたしはキトゥンという1人の少女だった。
袖が異様に膨らんだ黒い衣装は、カラスを連想させた。
黒衣の少女が従える存在もまた、星空をこねて創ったようなカラスもどきだった。
オルドノワのとあるビルの屋上。
わたしと同じように空中を移動するその少女をここまで追ってみたが、いざ声をかけようとすると、その身体が放つ威圧感と瞳の宿す暗い迫力に気圧されて、言葉に迷ってしまう。
訊きたいことは山ほどあった。
この力について、猫もどきについて、そのカラスもどきについて、力の使い方について……
彼女なら、その疑問のいくつかに、ともすれば全てに答えをくれるかも、という淡い期待があった。
わたしはあまりにも無知だった。
結局、それらの答えを彼女から得ることは叶わなかったけれど。
しどろもどろのわたしにしびれを切らしたのか、それとも初めから興味などなかったのか、黒衣の少女は空の彼方へ飛び立っていった。
先ほどまでのゆったりとした飛行ではない。
重力操作のいろはを学んだばかりで、技量の十分ではなかったその頃のわたしでは到底追いつけなかった。
目的を失い、また途方に暮れる。
それでも、怪我の功名というべきか、比較的高いところにたどり着いたから、街を見渡すことができた。
そこから見ると、街が下界も見えないような上空にあること、巨大な柱に巻き付くようにできていること、そして、数か所がかじられた様に欠損していることが分かった。
街の上空を無数の空飛ぶ船が往行している。
プロペラの類は見当たらない。
何か特殊な原動力で飛行しているらしい。
もう少し視点を狭めて分かったのは、ここがどうも路地裏らしいことだ。
広めの空き地に、動いているのかすら怪しい工場。
さびれた雰囲気をただよわせるここにいるのは、わたしを除くと、いかにもガラの悪そうな男が3人ほどだ。
……いや、もう1人いた。
その3人に包囲されるように、青い制服――警務官、という人たちの制服だろう。黒衣の少女を追う途中で見かけたはずだ――の男が立っている。
壁に背を預け、おびえた顔をして、文字通りの立ち往生といった有様だ。
驚いたのは、3人の男がそれぞれ手にしているのが鉄パイプやナイフといった凶
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