第二百三十八話 幕府その十
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早朝に起きてだ、すぐに帰蝶に言った。
「ではこれよりじゃ」
「はい、朝食をですね」
「食う」
まだ外は暗い、その中出の言葉だ。
「湯漬けをくれ」
「具足、陣羽織の用意は出来ております」
帰蝶は微笑み夫に答えた。
「そちらも」
「そうか、何よりじゃな」
「はい、それでは」
「まずは具足を付け陣羽織を着る」
「その間にですね」
「飯の用意をせよ」
その湯漬けのというのだ。
「よいな」
「わかりました、それでは」
「もう皆用意は出来ておるな」
「はい」
一言でだ、帰蝶は信長に答えた。
「そちらも」
「ではな」
「湯漬けを頂かれて」
「そしてな」
「このお部屋を出られるまでに」
「まだ暗い、日の出と共に部屋を出るが」
その前にというのだ。
「一つ舞いたい」
「舞をですか」
「一つな」
「敦盛を」
「あの時とは違うが気持ちは同じじゃ」
だからこそというのだ。
「敦盛を舞いな」
「そのうえでお部屋を出られて」
「出陣したい」
「わかりました、鼓の用意も出来ております」
「ははは、何でも出来ておりますな」
「上様の妻なので」
帰蝶は微笑みのまま信長に答えた。
「そちらは」
「ううむ、考えが読まれておるか」
「読んではいませんが」
「それでもか」
「全て用意させてもらいました」
そうだというのだ。
「その様にです」
「左様か、ではな」
「これより」
信長は自ら具足を着けた、南蛮具足は今は青く塗っている。その具足を着けて上からマントを思わせる裏が赤の青い陣羽織を羽織ると。
湯漬けが出来ていた、その湯漬けをだった。
信長は立ってかき込んだ、そのうえで。
食べ終わるとだ、そこでだった。
鼓が鳴った、帰蝶が自ら鳴らしていた。信長は扇子を手にしてだった。
舞った、その舞を舞ってだった。
舞い終わってだ、扇子を収めて帰蝶に顔を向けて言った。
「丁度明るくなった」
「はい、では」
「これよりな」
「ご出陣ですね」
「留守は頼む」
長益と共にというのだ。
「ではな」
「帰られたらどうされますか」
「茶の用意をしておいてくれ」
「茶ですか」
「天下の大茶会を開く」
この安土でというのだ。
「それを行う」
「ではよき葉を用意しておきます」
「ふんだんにな、ではな」
こう話してだ、そしてだった。
信長はだ、障子を開けた。それから。
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