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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十一話 二重スパイ
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「冗談だろう」
「冗談じゃない、とんでもない状況になっている」
ギュンターが溜息を吐いた。憂欝そうな表情だ、嘘ではない。しかし、汚職?
「内乱前は汚職の大部分は貴族がらみだった。ところがその貴族が没落した。これまで指を咥えて見ていた連中が今度は自分達が美味い汁を吸う番だと張り切りだしたのさ」
「しかし、それだけで憲兵隊の総力を挙げるほどの状態になるのか?」
ギュンターが今度は肩を竦めた。
「元々この件について最初に気付いたのはエーリッヒなんだ」
「そうなのか」
「内乱で鹵獲した艦の売却について不正が無いか調べてくれと言われてな、それで調べたら……」
ギュンターが肩を竦めた。
「芋蔓式に不正が見つかったよ。同じ人間がいくつもの不正に関わっていたからな。賄賂を渡して不当に安く買った艦を解体して部品を軍や運輸省、工部省に新品として売りつけた。もちろん買う方も分かって買っている。皆ぐるになって不正をしていた」
「……貴族の後釜か……」
呆れた、犯罪も悪人も身分は関係ないか……、思わず溜息を吐いた。
「まあそんなところだ。それがきっかけで軍、政府で汚職の捜査が始まったんだ。とんでもない騒ぎだよ、改革派の尚書達は激怒している。連中に不正をさせるために改革をしてるんじゃないってね……」
「……」
「悪い事に辺境星域の開発も始まった。開発が始まれば利権も生まれる、甘い汁が吸えると手ぐすね引いて待っている連中が多いのさ」
「それで卿らが?」
ギュンターが頷く。コーヒーを一口飲んで妙な顔をした。俺も飲んだ、なるほど、司令長官室のものに比べればかなり落ちる。
「不味いな、ギュンター」
「うむ、不味い。というよりエーリッヒの所が美味すぎるんだろう、贅沢しすぎじゃないのか」
「そのようだな。あいつはコーヒーを飲まんから分からんのさ」
「なるほど、一度捜査するか。不正があるかもしれない」
顔を見合わせて苦笑した。もう一口飲む、やはり不味い。
「辺境星域の貴族達もこの件を知ってかなり心配している。自分達が食い物にされるんじゃないかとね」
「なるほど……」
なるほど、状況は分かった。それにしてもエーリッヒの奴、良く見つけたものだ。サイオキシン麻薬、今回の汚職、あいつ一体幾つ目が有るんだ? それとも鼻か? 軍人なんかより警察の方が向いてたんじゃないか。
しかし妙だな、広域捜査局ではそんな汚職の話は聞いた事がない。事実なら第二課辺りが動いても良さそうなものだ。それに保安省も動いていない。軍はともかく省庁に対しては動けるはずだが……。
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