第1話「外見は髪型と目のパーツで判断できる」
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た。
そりゃ彼女の冷徹な眼に怯えてしまう子もいたが、そこは気立ての良いたまがフォローしてくれた。
子供たちの笑顔に囲まれてゆくうちに、双葉の口元もほんの少しだけ緩んだ。
そうしてゆっくりと流れていた一日は、あっという間に過ぎて行った。
* * *
「またね〜お姉ちゃんたち〜」
「また遊んでね〜」
「バイバ〜イ」
夕暮れを背に子供たちは大きく手を振って、双葉とたまに別れを告げた。
母親が作って待ってる夕飯が待ち遠しいのか、走って帰る姿も元気一杯だ。二人は子供たちが見えなくなるまで見送った。
そろそろ約束の時間が近づいてきたので、双葉も『スナックお登勢』へ足を向ける。
「『娘に笑顔を』」
唐突に呟かれた言葉に眉をひそめて振り返る。もう純粋な笑顔は消えた――普段の無感情な顔に戻ったたまが、淡々と言葉を紡ぎ続けてきた。
「私の破棄されたデータの中に残っていた言葉です。ですがいつ、どこで、誰が言っていたのかは記録されていません」
子供たちと初めて遊んだ日。
モグラ叩きで喜ぶ子供たちの笑顔を見た時――ふっとこの言葉が沸き上がった。
本当に『言葉』だけが自分の中に浮かんできた。
かなり古いデータの欠片のようだったが、これといって思い当たることがない。
何度か捜索してみたものの、それに繋がる記録は見つからなかった。
「だから分かりません。なぜこの言葉が残っていたのか。どうして急に復元されたのか。全く解明できません。今日までお登勢様や銀時様たちと過ごした事はすべて覚えているのに」
「覚えていない事だってあるだろ」
「え?」
「なんでもない。それで」
どこか自嘲気味に奇妙な事を呟いた双葉は、さっそうに話題を戻す。
少し気になったが、たまは促されるまま答えることにした。
「……そのことを考えるたびに、ここが痛むんです」
たまは物憂げに自身の胸に手を当てる。
この言葉は、無知だった頃の自分に存在した『侍』という言葉と同じ暖かさを感じる。
とても優しさに溢れていて、誰かが誰かのために贈った言葉……のような気がする。
なのに、憶えていないなんて悪いように思えて仕方ない。
「……双葉様、私は失くしてはいけないデータを損失してしまったのでしょうか?」
「さぁな。私にふるな。そんなの知らん」
双葉は冷たく言い放った。
だが彼女の返答は正しいと、たまは思う。
自分でも知らない事を他人が知ってるはずがない。聞かれたって答えられないだろう。
しかしそう思っていた矢先、おもむろに双葉の口が動いた。
「だが記憶は残るものだ。それが大切な記憶なら、尚更な」
改めて双葉はじっと見返してきた。
「その言葉には、何かしらの『想い』がこめられているんじゃないのか」
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