風紀委員の職務
12
[8]前話 [2]次話
「え、な――」
「静かに」
何なの、と問い掛けようとして口を塞がれる。
澪の手の大きさでは姫羅の鼻まで包み込んでしまい――姫羅は慌てて、掌の位置を下へとずらした。
澪を見ると何かを警戒したような険しい表情で、目だけを動かし周囲を見据えている。
……何?
不意に胸の中がざわめく。
口元を覆う掌が外され、澪がこちらを振り返った。
「お前、あれ持ってるか?」
「え……な、何の話?」
「理事長から貰った武器の話だ」
「あ、あの鞭?あれなら――ここに」
腰に提げたポーチの中を探り、理事長から譲り受けた鞭を澪の前に差し出して見せる。
澪はそれを見て頷くと、内ポケットから短刀を取り出す。
「敵襲だ」
「……はい?」
「敵襲」
――敵襲。無感動に放たれた言葉を脳内で復唱する。
やや時間を要したもののその発言が意図するものを理解すると、姫羅は鞭を握ったまま慌てふためく。
「ちょっと待ってよ、敵襲って!敵襲ってどういう事!?」
「騒ぐな。来る」
澪の言葉を皮切りに、二人の周囲の木々が激しくざわめく。
不安感に打ちひしがれながら目線を掲げると、人間――人影らしきものが木々から木々へと飛び移るのが見えた。
……何あれ。
その疑問を澪に投げようとしたけれど、遅かった。
「随分無防備だね、お嬢ちゃん。武器は一人前のくせにさ」
目を離した一瞬のうちに木と木の間を徘徊していた人影が地上に降り立ち、姫羅の身体を羽交い締めにしていた。
反射的にそちらへ目を向けると、正気が消え失せた――狂気に満ちた目と視線が絡まり合う。
きちんと締めた制服の胸元を力任せに裂かれ、ボタンが弾け飛ぶ。晒された白い首筋を見て、目の前の男は不気味な笑みの形に顔を歪めた。
肩口に顔を埋められ、絖(ぬめ)った舌が肌を這う感触。
恐怖で動けない。声が出せない。近くにいたはずの澪の姿は――ない。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ