風紀委員の職務
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長く見えていた道だったけれど、辿り着いてみたら案外近い。
学園の敷地内なんだから当然か、と姫羅は胸を撫で下ろした。
目の前に聳え立つのは夜間部の面々が生活を送る【月の寮】。
校舎と負けず劣らず豪華な創りにため息が出る。
「凄いね、【月の寮】って……」
呟くと、姉の手を引き正面玄関へと向かっていた澪も足を止め、姫羅と同じく建物を見上げる。
「……夜間部の奴らは家柄もしっかりした頭脳明晰のエリート集団だから。学園も雑には扱えないんだろ」
「へえ……」
夜間部の人たちってそんなに凄いんだ。
入校式で理事長が夜間部について奮っていた熱弁の一部を思い出す。確か、文武両刀の優れた人種――だとか何とか語ってたような気がする。
そこで、やっと気付いた。
私は弾かれたように澪くんを振り返る。
「待って。樹里愛さんって夜間部の人だよね?」
「ええ、一応」
「……じゃあそんな御方を姉に持つ澪くんもかなり凄い人なんじゃ……」
「……まあ…一般階級ではないけど。大差無いだろ」
御丁寧な姉弟交互での返答を聞いて、私は項垂(うなだ)れてしまう。
外見といい、詳細は知らないけれど家柄や教養の差といい、見えないはずの格差が目に見えた気がしたのだ。
「じゃ、姉さん。俺達は寮周辺の見張りに回るから」
顔を上げると、澪が姉を【月の寮】の玄関に送り届けたところだった。
別れが惜しいのか、樹里愛は半開きのドアに身体を半分ほど滑り込ませた状態で弟の手を握っている。
やがて、ゆるりとその細い指先を滑り落とすと微笑と共にこちらへ手を振る。
「頑張ってね、澪。姫羅さんも――今日はありがとう。また明日……」
澪は微かに笑い、姫羅が頭を下げると満足げに目を細めてから彼女は寮の中に消えた。間髪入れずに両開きの豪奢なドアが閉まる音が響き渡り、それが止んだ後は静寂が訪れる。
空を見上げると、もう完全に夜だ。太陽は山腹の陰に姿を隠し、代わりに無数の星が天空で輝いている。
姫羅は唸りと共に両腕を掲げ身体を大きく伸ばし、改めて澪へと向き直った。
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