風紀委員の職務
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忍び笑いの気配に気付いたのか、濃茶色の長い髪が細い肩を伝い、背に流れ落ちた。
生まれた隙間からどこか怯えたような大きな瞳が姫羅を捉えている。
そして身体をゆったりと起こすと――彼女は、可愛らしい声で問い掛けてきた。
「……あなたは?」
「あ、えッ……ええと…」
焦る必要は無いのに、何故だか妙に慌ててしまう。
―――綺麗なひと。
深い栗色の髪に赤い瞳、風貌こそ澪とは似つかないものの物凄く美しい女性だ。
年齢は当然ながら自分より幾分か上なのだろうけれど、それを感じさせないあどけなさと、女性らしい色香も兼ね備えた雰囲気。
小首を傾げて尋ねるその姿は、清楚で愛らしい。
「姫羅だよ、姉さん。しばらく一緒に風紀委員の仕事をやる事になったんだ」
目の前の女性に完全に心奪われている姫羅に代わり、澪が説明する。
彼女は澪に目を向け、そう、と呟くと姫羅に視線を戻した。
さっきまで密かに含まれていた警戒の色は影を潜め、彼女は笑顔を纏って口を開いた。
「初めまして、澪の姉の樹里愛です。宜しくね、姫羅さん」
「――あ、えっと……宜しくお願いします……」
あまりにも美しく微笑むものだから、咄嗟に反応出来なかった。
樹里愛と名乗るこの女性の礼儀の正しさに恐縮してしまい、姫羅は身を縮こませぺこりと遠慮がちに頭を下げる。
その光景を黙って見ていた澪が、腰に纏わりつく姉の身体を引き離した。きゃ、と小さな悲鳴が耳に届く。
黒い制服の上着をおもむろに脱ぎ、それを姉の上肢に掛けてやると室内に取り付けられた時計に目を向けた。
「姉さん、日没までまだ時間がある。これ」
そう言って、澪はベッドに立て掛けられていた傘を樹里愛に差し出した。
――日傘?夕方なのに?
喉まで出かかった疑問を慌てて呑み込む。この状況で無粋な質問を投げ掛けるのは何だかマナー違反だという気がした。
日没まで時間があるって言ってたから、光が苦手なのかもしれないし。色々あるよね、と樹里愛という女性のために自分を納得させる。
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