風紀委員の職務
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静かな廊下を並んで歩く。
何だかんだ言って、時刻は既に夕方。
校舎の窓から差し込む夕陽が二人の足元を赤く染め、気まずさから下を向いて前進する姫羅の視界は赤一色に支配されていた。
隣を歩く澪の顔を横目で窺うと、やはり無表情だ。
姫羅が隣にいる事なんて意にも介してない様子でひたすら前に進んでいる。二人の目的地は澪の姉がいるという救護室だ。
澪と姫羅の風紀委員としての初仕事は、彼の姉を【月の寮】まで送り届ける事だった。
「……あの、澪くん」
「何」
「お姉さん、体調悪いの?救護室って――」
そこまで言って、澪がああ、と相槌を打つ。
「……姉さんは朝に弱いから。入校式直前に起きる気配が無かったから救護室にブチ込んだだけ」
「え」
意外な回答に面食らってしまう。
体調が悪いなら私は退散したほうが良いのでは、と言おうとしたのに。……本当はただ気まずいだけなんだけど。
そこで澪が突然振り返り、二人の視線が交わった。
何度見ても慣れが生まれない。それほど澪くんは綺麗な顔をしている。
前触れもなく絡まった視線に姫羅がたじろぐと、澪は薄ら笑った。
「お姉さんの具合が悪いなら、私は先に帰ってようか?」
「……え」
「そう言おうとしたんだろ?」
小馬鹿にしたような口調で吐き捨てる。
普通の人なら少しぐらいムッとしてしまう場面なんだろうけれど、姫羅はその場で立ち止まったまま硬直してしまった。
ふと澪が隣を歩く、自分から見れば小さな影が無い事に気付き足を止め、後ろを振り返った。
「……何アホ面晒してんの」
「――心、読まれたのかと思った」
何で考えてる事わかったの、と言いながら、姫羅が小走りに空いた距離を詰める。
……予感はしてたけどこの娘は馬鹿らしい。
澪は自分の額に指先を押し当て、そこから生まれる鈍い痛みを抑制しながら答えになってない言葉を返した。
「姉さんを見ればそんな考えも吹き飛ぶだろうな……」
「どういうこと?」
「あいつは――あの人は、破天荒だから」
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