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「ほら、だから言ったのに」
「ご、ごめんね……」
涙目で腰を撫でる姫羅に近づき、凛音が手を差し伸べる。
姫羅が苦笑い混じりにその手を取ろうとした瞬間――突然、視界が動いた。
「ごめん、大丈夫?」
姫羅と凛音、二人が驚いて振り返ると鮮やかな蜂蜜色の制服の男子が顔を覗き込んでいた。
目の前の彼が凛音よりも早く姫羅の腕を引き、立ち上がらせてくれていた。
整っているけれど、どこか人懐っこそうな容姿の青年だ。
アカシヤ色の優しい緑の瞳が魅惑的で――吸い込まれそうになる。
「……あの」
再び声を掛けられ、彼の容姿に見惚れていた姫羅ははっと我に帰る。
黒い制服に付いた汚れを払いながら頬に熱が集まるのを感じる。
……やだ。
あまりにも綺麗な男の子だから、つい見惚れちゃってた。
慌ててぺこりと頭を下げる。
「こ、こちらこそごめんなさい。ありがとう」
「良かった。怪我は無いみたいだね」
姫羅の言葉を聞き、彼は愛嬌ある笑顔を振りまく。
笑顔も完璧なまでに美しい。
非の打ち所が無い…とはこういう事をいうのかと妙に感心してしまった。
相変わらず頬の熱は冷めないまま、ちらりと上目で彼の顔を見上げる。……格好良すぎて言葉が出てこないなんて、生まれて初めての経験なんですけど。
「また誰かにぶつからないようにね」
にこり、と笑顔を深めて青年は人混みに消えようと踵を返した。
その時、あるものが一瞬姫羅の目に留まった。
――牙?
彼の綺麗な歯並びの中に、一つだけ突き出た鋭い歯牙を見た気がした。
八重歯?とも何だか違うような。目をぱちくりさせて青年がいた位置を見つめるけれど、その姿は既にどこかへ消えてしまっていた。
何だろう、気のせいかな。
微かに残る疑念に首を傾げると、聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。
「姫羅〜、いつまで見惚れてんの」
見ると、凛音が腕を組み呆れたような顔で立っている。
親友からの鋭い突っ込みに再び頬が赤くなるのを感じ、慌てて首を振った。
「ち、違うよ!ほら凛ちゃんッ、入校式始まっちゃう……!」
「絶対見惚れてたから!」
騒ぐ凛音の背中を押し、姫羅は自分の席へと向かうのだった。
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