革命前夜
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「――今まで、ありがとう」
ゆらゆらと揺らめく炎。
この炎は、嘗ての―――遥か遠い昔、吸血鬼界を取り仕切っていた盟主の命そのものだ。
この炎から、吸血鬼を狩るための武器が生み出される。
何という皮肉だろうか。
炉の前に佇む男は嗤(わら)った。
吸血鬼の命から生み出したものが、その命を奪う武器を創り出すとは。
今夜、この灯火を消さなくてはいけない。
それが【彼女】の望みなのだ。
男が小さく頷き、浄化のための道具を手にした――その時。
「許さないわ」
振り向く隙も与えられなかった。
どん、という衝動と共に何かが自分の胸を貫く。
息苦しさは、一瞬の間を置いてやってきた。
「………っ、ぐ……!?」
衝撃が生まれた箇所が疼く。
次第に熱を帯び、生温かい液体が地面に滴る音がした。
見ると、男の足元は真っ赤に染まっていた。
誰かの細い腕が、胸部を貫いている。
急速に弱まってはいるものの未だに鼓動を生み出している心臓を握られている。奇妙な感覚だ。
脳が状況を把握した瞬間、痛みが襲ってきた。
耐え難い激痛が全身に広がる。思わず叫ぼうと口を開くが、恐怖と痛みのあまり声が出ない。
その間も、血液は次々に流れ出す――。
…ああ、こんなに血をばら撒いたら、厄介な吸血鬼たちが集まってきちまうなあ。
だんだん赤に染まる視界の中で、呑気な事を考えていると、再び凛とした声が響いた。
「炉の火は、落とさせない」
力を振り絞って、声の主を見上げる。
霞む視界に映る端正な顔立ち。どこかで見たような顔だ。
この女性(ひと)は―――。
「ッ、お前は……!」
自然と口をついて出た言葉と共に、大量の血が溢れ出す。
ずるっという濡れた音と共に腕が引き抜かれ、男は成す術もなく崩れ落ちた。
一瞬のうちに事切れてしまった身体。
その表情や見開かれたままの瞳に既に生気は感じられないが、流れ出す血はまだ温かい。
赤い池を踏み締め、月明かりの下で少女は微笑んだ。
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