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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ
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 「ふぎゅうぅ」
 私の拳と体当たりを喰らった男が仰向けに倒れ、ついでに私まで男に乗っかる形で一緒にひっくり返ってしまった。
 「な、なんなのよ!? あんた!」
 ガバッと上半身を起こせば、どうやら心臓を狙った私の手は、男の腹に打撃として入ったらしい。着古され、多分此処に来るまでの間に汚れまくったのだろうぼろ服が、そこだけ奇妙によれてる。
 気が抜けた所為もあるんだろうけど、よく見ると思ったより背が高い。目測を誤ったのか。
 「ぐげふ! かふっ……いっつつ……」
 苦しげに咳き込んで……あ、虹彩が涙で潤んでる。金は金でも、ハチミツ系の澄んで滑らかな金色なのね。
 いや、それはどうでもいい!
 「急に変な事言わないでよ! おかしな力の入り方した所為で手が痛くなったじゃない!」
 「え。あ、えーと……ごめんなさい」
 「謝るの!?」
 「自分の所為なら謝るのは当然だと思うけど、何か?」
 「何か? じゃない! 私は今、あんたを殺そうとしたのよ!? 此処は恐怖に引き攣った顔で「悪魔ー!」とか叫びながら逃げるのがセオリーってもんじゃないの!?」
 少なくとも今まで殺してきた人間は全員そうだったのに、綺麗って何、綺麗って。
 この場面で私に賛辞を寄越してどうすんのよ!
 「はあ……それならそれで良いかも知れない。もうどうしていいのか判らないし、君みたいな人……悪魔だっけ? に、殺してもらえるなら、人生最後に潤いがあったって言うか」
 ハチミツ色の目に自嘲を浮かべてふいと横向いた白い顔を、麦色の短い髪がサラリと撫でた。
 こいつ……
 「止めた」
 「は?」
 すっくと立って膝を払う私を、間抜けな男が見上げる。
 「死にたがりを殺してもつまらないもの。どうしてこの私がくだらない消失願望を叶えてやらなきゃいけないのよ、鬱陶しい。獣の餌にでもなれば? この辺り、夜になれば肉食動物がいっぱい現れるから丁度良いわ。動物の血肉になれば、無駄に溜め込んだその生命力もきっちり活用されるでしょうよ」
 たまに居るのよね。こういう、無気力の塊みたいな人間。
 哀愁背負って「自分、もう無理なんです……ふふ」とか、莫迦じゃないの? 羽虫が耳元で飛んでるのと同じくらい目障りで耳障りだわ。
 こういうのとは一切関わりたくない。
 「あー……別に、死にたい訳ではないよ。そうなるならそれでも良いかってだけで」
 「つまり死にたがりでしょうが」
 「いや。これはただの現実逃避」
 「自覚してんのかよッ!」
 本当になんなの、こいつ。私のほうが調子を狂わされてる。
 嫌だわ。放っておくんだった。
 「実は僕、楽師になりたくて上京したんだけど、その道では有名な奏者達に「逆天才と讚美するに価する清々しいまでの不器用さ故に努力の掴み所を見付けよ
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