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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十九話 終結
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てくると挙手の礼をして“エーリッヒ・ヴァレンシュタインです”と名乗った。こちらも名乗り礼を返すとソファーへと案内された。席に座ると直ぐに女性士官が紅茶を持ってきた。この士官も見覚えが有る。名は忘れたがあの時、リューネブルクと一緒にいた女性士官だ。彼女は紅茶を配ると一礼して部屋から出て行った。
「敗残の身を閣下にお預けします。我々は如何様なる処分をされようと構いません。ただ部下の将兵には御配慮を賜りたい」
ビュコック司令長官の言葉にヴァレンシュタイン元帥が軽く笑みを浮かべた。苦笑だろうか。
「御安心を。我々は勇敢に戦った敵を賞賛はしますが侮辱するような事はしません。それは貴方方も含めてです。それにこれ以上意味の無い血が流れるのは避けるべきだと考えています」
大丈夫だろうと思ってはいたがきちんと言質を取ったことでホッとした。口調も誠実さを感じた、信じて良さそうだ。紅茶を一口飲んだ、美味い、かなり良いものを使っている。
「降伏してくれたことには感謝しています。皮肉では有りませんよ、本心です。これ以上敵も味方も犠牲は出したくありませんでした。何度か降伏勧告をしようかと考えたのですが侮辱と取られては却って犠牲が増えると思い止めました」
傲慢さは感じなかった。微かにだが口調には安堵の響きが有った。
「降伏は政府からの命令でした」
私が言うとヴァレンシュタイン元帥は“政府の”と声を出した。声にも表情にも驚きが有った。
「アイランズ国防委員長の命令ですか?」
「いえ、トリューニヒト議長の命令です。これ以上無益な戦いは避けるべきだとの事でした」
「……しかし自由惑星同盟政府は降伏しませんが?」
ヴァレンシュタイン元帥は不思議そうな表情で私を見ていた。如何いうわけか幼さを感じた。その事がおかしかった、相手はこの宇宙で最も危険な相手なのに。ビュコック司令長官も同じ事を感じたのかもしれない、幾分苦笑を浮かべながら口を開いた。
「アルテミスの首飾りが有ります。あれが役に立たない事を我々は知っていますが市民は知りません。現時点での降伏は同盟市民の間に混乱を生じるだけでしょう、場合によってはそれによって政府自体が瓦解しかねません。そうなれば無秩序な抵抗が起き犠牲が増えるだけです」
「なるほど」
ヴァレンシュタイン元帥が二度、三度と頷いた。
「トリューニヒト議長ですか、以前から思っていたのですがやはり単なる扇動政治家ではないという事ですね」
「……」
「お会いするのが楽しみです」
そう言うとヴァレンシュタイン元帥は紅茶を一口飲んだ。口元に微かに笑みが有った。
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