暁 〜小説投稿サイト〜
彼に似た星空
16.提督はどこですか
[3/3]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
飛ばし、執務室の中に入ろうとした。だが突き飛ばされた木曾は倒れず、逆に私の背後に回りこみ、私を腕ごと抱きしめ、制止した。

「金剛……察してくれ……お前は……見ちゃダメだ……!!」
「いやデス!! 会わせて下サイ!! テートク…テートク……!!」
「すまない金剛……あいつを守れなくて……!!」
「謝らなくていいからテートクに会わせてくだサイ!! テートク!!」

 顔を見なくても、木曾が泣いているのが分かった。歯ぎしりも聞こえた。悔しそうに何度も何度もしゃくりあげていた。

「金剛さん、やっぱりこっちはもう提督が見当たりません……このままじゃ提督、元に戻せません」
「テートク…テートク……!!」
「どうしよう……もっと遠くに飛んでっちゃったのかな……困ったな……」

 五月雨の困ったような涙声が聞こえる。いつもの、ドジをして困った事態が発生したときのような、本人にとっては重大な事態でも周囲にしてみれば微笑ましいケースの時のような…今一事の重大さが伝わらない、五月雨独特のいつもと変わらないトーンで、五月雨は提督を探し続けている。

 嫌だ。認めたくない。彼は死んでない。この二人は嘘をついている。彼はこの壁の向こうで生きている。きっと私を待っている。私には分かる。私が彼を愛していて、彼は私を愛しているのだから。昨日、この執務室で、彼は私にそう言ってくれたのだから。

 五月雨が振り返った。彼女の服の前面は血まみれになっていた。血まみれの原因は、彼女が大事そうに抱えていたものにあった。それを見た時、私はすべてを察した。この二人は嘘をついていないことと、提督はもう生きてはいないこと。彼は理不尽に殺されてしまったこと。彼に触れることはもう出来ないこと。彼の声を聞くことはもう出来ないこと。彼と愛を確かめることはもう出来ないこと…すべて察した。私は立つ力をなくし、膝からその場に崩れ落ち、木曾に体を委ねた。

「嘘……嘘デス……テートク……」
「金剛……あいつを守ってやれなくて……すまない……」

 私は声を上げて哭いた。喉に痛みが走り、枯れ、潰れても哭いた。木曾は私を、力を込めて抱きしめてくれた。『すまない』と何度も謝りながら、私が崩れ落ちてしまわないよう、あの日の彼のように、ずっと私を支えてくれた。

 五月雨が両手に大事そうに抱えていたものは、あの時私の左手の薬指に指輪をはめてくれた、彼の右腕だった。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ