彼女達の結末
三 重奏
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女を抱き締める。
彼女を守らなければならない。私は彼女に救われた。彼女に助け出された。記憶は未だに靄掛かったまま。けれど、確かに覚えているのは、私の手を引く彼女の姿。必死にしがみついた腰、二輪車の鼓動。背後から迫るのは、そう。
この道を埋め、壁を這い、天井にぶつかりながら。トンネルを揺らし、轟音を響かせ。穿孔し身をくねらせた巨大な虫、無数の足で金属を掻いた、百足にも似た昆虫兵器……のたうちながら私たちを追った、その虫の姿を幻視して。
あの時は、震えることしか出来なかった。今と同じ力を持っていながらも、リティに頼り切りだった。でも、今は。今は、違う。
「リティ」
此処に、あの虫は居ない。変わりに迫り来るのは、無数の変異昆虫の群れ。歪な足、甲殻、複眼。奇妙で、おぞましく、凶悪な、通路を埋め、私たちを喰らわんと迫る虫の群れ。それに重なる過去の光景、巨体。それから。
「私が守るよ。何時まででも。何処まででも」
獣の足が床を蹴る。迫り来る虫の大顎、巨大な牙、それを。
加速し。背後、鳴り響いた牙と牙が私達を捉える事無く打ち合わされた音。振り向くことも無く。
通路の終わりへ。トンネルの先へ。明かりの灯った開けた場所へ。
私たちは、飛び込んで――
暗がりを抜けた先、唐突に差し込んだその光に目を細め。その眩しさに怯みながらも通路から身を躱し、勢い余った昆虫達がぶつかり合い、縺れながらトンネルから飛び出す様を横目にやり過ごす。
其処は、潰された車両の並ぶ開けた空間。砲身の圧し折れた戦車、横倒しになった装甲車。そのどれもが破壊しつくされ、見覚えのある二輪車と同じ形の残骸も複数。通路から溢れ出した昆虫兵器達、それ等がその勢いもそのままに地を這い、壁を這い、私たちへと向けてまた、その牙を打ち鳴らす様を見やり。
奥に備え付けられた扉は硬く閉じ切ったまま。開けるにせよ、壊すにせよ。此処で虫を打ち払わなければ自由は無い。此処まで来て。進路は閉ざされ。退路は無く。絶望的と言うならば、確かに、そう。
「リティ、逃げることが出来るのはここまでみたい」
彼女を床へと下ろす。彼女の靴が立てる乾いた音、金色の髪が靡く様。彼女の体にはもう、先に見たような震えは無く。その手は無骨なライフルを握り。
「そうみたいね。でも」
一歩。彼女は進む。私も、また。
「守って、くれるんでしょ?」
浮かべるのは、笑み。悲哀なんてものは、無く。あるのは、何処か。喜びさえも感じるほどの――
「――うん。約束する。絶対に守る」
「そう。なら、私も約束する。あなたを守るわ、マト。一緒に」
「うん。一緒に――」
爪を翳す。彼女は、銃口を。向ける先は、無数の虫。一度は、大切な
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