暁 〜小説投稿サイト〜
或る短かな後日談
彼女達の結末
三 重奏
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「……暗いのは、これの所為ね。電灯、壊されてたんだわ」

 アンデッドの視力、暗がりであれど有る程度は見通せる目を以ってしても、完全な闇の中では目視など出来ない。トンネルへと踏み入って、此処まで歩いて。壊された灯、その目前まで来てやっと気付けたこの惨状。トンネルの外、異形の蠢く空洞は、虫達が掘り進めた地下の城砦なのだと気付く。私たちの朧な記憶に残った景色は、今となっては虫の巣窟。此処から先へと踏み入るのであれば。
 アリスを喰い散らかした虫達。アリスが打ち壊した虫達。奴等との戦闘は避けられないのだろう。

「……進むんだよね、リティ」

 彼女の問いに、返答を躊躇う。引き返したところで、ネクロマンサーから逃れられないのは分かりきったこと。進もうが、退こうが。あるのは迫り来る悪意だけ。ならば、進むしかないと。分かっていながらも。
 聞こえる虫の足音に。牙を打ち鳴らす音に。体は、竦み、震えて。

「……進むよ。マト。でも、ごめん。正直に言えば、とっても怖い」
「……私も、怖い。でもね、リティ。私、思い出したんだ」

 マトは、言う。その体に、震えは無い。

「リティは、私を連れ出してくれた。何も分からない私の拘束を解いて、混乱の中から連れ出してくれたんだ。二輪車の後ろに私を乗せて、虫の群れから……私を乗せて、走ってくれた。だから」

 彼女は。私を抱く。その爪で傷つけないように、優しく。けれど強く、私を抱き上げて。抱き締めて。

「一気に駆け抜ける。安心して、リティ。今度は私が、リティを、リティの行きたい所まで連れて行くから」

 浮かべるのは、笑みで。体の震えは、彼女の腕の中で。抱き上げられ、抱き締められ。冷たい体と、体が触れあい、治まっていく。
 嗚呼、そうだ。彼女が居れば。どんな時でも。恐れることなんて、必要ないのに。今までの戦いで。今までの道で。何度もそう、思ってきたのに。

「……ありがとう、マト。一緒に居てくれて」
「こちらこそ。さ」

 行くよ、リティ、と。彼女は、一つ、声と共に。

 虫の巣窟と化した通路。その先へと向けて、駆け出した。




◇◇◇◇◇◇



 駆ける、駆ける、駆ける。足元や頭上、傍ら。暗闇から飛び出す無数の鉤爪、牙、(あぎと)。虫達の群れを躱し、躱し。無残な姿の通路の先へと走り行く。時には、身を屈め。時には、這い出した虫、その背を蹴って。腕に走る創傷。噴出そうとする粘菌を再生する体で以って閉じ込め。僅かに宙を舞った赤い水滴が虫の口へと飲み込まれていく様を見送る。
 一瞬でも反応が遅れれば。あの口の中に納まるのは私たちの体で。一瞬でも反応が遅れたならば。此処に、私たちはもう居なかった。震えが走りそうになる体を諌め、恐怖を誤魔化すように腕の中の彼
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