彼女達の結末
三 重奏
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か。逃げようとしたのか。あの狂騒の中で、私は――
何処へ。行こうとしたのだろう。燃える街を越えて。虫の羽ばたきを越えて。私たちは、何処へ行こうとしたのだろう。
「……リティ。聞こえる?」
マトの声が、トンネル内で小さく反響する。彼女に倣って耳を澄ませば、それは、何処か。位置こそはっきりと知れないものの、硬い何かがぶつかる音。金属を叩くような。そして。擦れあうような。
「……虫の足音と、羽音?」
「多分。トンネルの外、かな。空洞になってるのかも」
新都、そして軍施設の、詳しい構造が思い出せない。しかし、彼女の言葉の通り。音は、トンネルの外から響いてきていて。昆虫兵器、一体一体が巨大で。そうして群れを成し、本能に従い――
攻撃性を強めるよう、歪められた本能に従って都市を蹂躙する兵器の総称。はっきりとは思い出せないものの、私たちは確かに混乱の最中、昆虫兵器の群れによる攻撃を受けて。
「……ん……」
昆虫兵器の攻撃。それは、軍部の混乱の最中に行われた。軍部の混乱。それは、何故。私たちの所属した軍に、一体何が起こったのか。途方に暮れるような、手の施しようの無いほどの事態が、あの時起こって。それが、何によるものだったのか。ずっと昔に起こったこと。今更、どうしようもない事柄。でも。
混乱を引き起こした原因と共に、私たちにとって大切な、大切な何かも共に。共に、忘れてしまっている。思い出せないことが歯痒くそれは、忘れてしまって良い事では無いはずなのに。
「ねぇ、マト。昆虫兵器が街に侵入したときのこと、覚えてる? その時何か、軍部のほうでは事件が起こったはずなのだけれど」
足を止め。虫の爪痕だろうか、傷だらけの壁を撫ぜながら問う。数歩、先で止まった彼女は、暫くの沈黙の後に、振り向き。
「……分からない。でも、確か、その時……そうだ、アリス……」
「アリス?」
「アリスが、何か……駄目、私も思い出せない」
首を振る彼女。彼女も、私と同じように。確信を思い出すことが出来ないようで。
此処に、アリスが居たならば。疑問は溶けて消えるのだろうか。此処に彼女が居たならば……あの時、私たちに。アリスに何が起きたのか。全て、思い出せたのだろうか。
「……進めば、全部分かるのかな。ネクロマンサーの元へ辿り着いて、倒すことが出来たなら」
「……分からない。でも、きっと」
きっと。彼女のその言葉は、躊躇いと、期待。二つの思いを孕んだそれで。けれど。
私たちは、進むしかない。目の前に覗く行く先が、そう。
壁を打ち貫いて開いた洞穴。壁だけではない、天上や、床。無差別に、ランダムに。幾つも開いた風穴、巨大な何かが突き進んだ痕。それに埋め尽くされた道、絶望しか見えぬ道であっても。
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