巻ノ二十五 小田原城その十四
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「だから三法師殿が天下人になられるのが筋であるが」
「しかし三法師殿は幼い」
「まだ赤子です」
「そうしたお歳では」
「とてもですな」
「一応信雄殿がおられるが」
信長の次子だ、長子にして嫡男であった信忠が信長と共に本能寺の変において二条城で明智光秀に討たれたなら彼が跡を継ぐのが筋でもある。
だが僧侶はその信雄についてだ、こう言った。
「器ではない
「前右府殿の跡を継ぐ」
「そうした方ではですか」
「精々一国、いや一国すらな」
「治められぬ」
「そうした方ですか」
「前右府殿のご子息で一番落ちる方じゃ」
信雄、彼はというのだ。
「だからな」
「前右府殿の跡は継げぬ」
「それ故に羽柴殿に天下を奪われますか」
「織田家自体が」
「そうなる、天下は羽柴殿のものになるが」
しかしとだ、僧侶は秀吉のことも話した。
「あの方にしてもな」
「天下人となられるのに」
「あの方にも何かありますか」
「簒奪者であるな」
例え天下を手に入れたとしてもというのだ。
「このことは大きい、いざとなればそれが出てじゃ」
「人がつかぬ」
「そうなのですか」
「そして一門衆が少なく」
僧侶はさらに話した。
「特にご子息がおられぬ」
「それが羽柴殿の弱みですか」
「今後そうしたことが響きますか」
「羽柴殿がご健在なうちはいいが」
それでもというのだった。
「その後はわからぬ」
「ですか、では」
「老師は羽柴家にはお仕えせずに」
「徳川家ですか」
「そちらにお仕えしますか」
「そうするつもりじゃ、ではこれから駿府に向かう」
こう言ってだ、僧侶達は小田原を後にして駿府に向かった。天下の流れを見つつ。その僧侶を見てだ、服部は家康に言った。
「殿、武蔵の僧侶天海殿がです」
「あの学識と法力で知られているか」
「あの方がこちらに向かわれています」
「駿府にか」
「はい、そうです」
こう家康に答えたのだった。
「向かわれています」
「また何用であろうな」
「おそらくは殿に、です」
「わしに会いに来るか」
「そしてです」
服部は家康にさらに話した。
「おそらく殿にです」
「仕えたいとか」
「思われているかと」
「天海殿といえば関東随一の高僧」
家康は服部の言葉を受けてこう言った。
「その御仁が当家に入ってくれるならな」
「有り難いことですな」
「うむ、それならばよい」
「喜ばしいことと」
「では待とう」
その天海が駿府に来るのをというのだ。
「天海殿が来られるのをな」
「さすれば」
「当家はまとまっていて武に優れた者が多いが」
ここでだ、家康は徳川家自体のことも話した。
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