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平常心
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第一章

                        平常心
 カッチカッチカッチ

 今日もだ。メトロノームは動いていた。
 部活の間中ずっと動いている。それでリズムを取っていた。
「はい、メトロノームを見て」
 顧問の先生もそれを言う。場所は学校の音楽教室だ。
「今の動きはどうなってるかしら」
「均等です」
「ちゃんとしてます」
「そうよね。だからね」
 生徒達の言葉を受けてだ。先生はまた言ってみせた。
「皆もね。ちゃんとね」
「リズムよくですね」
「バランスよく」
「そうよ、安定感よ」
 そしてだった。先生はここでこう言うのだった。
「安定感が大事よ」
「わかりました」
「それじゃあ」
「何事も安定感」
 また言う先生だった。
「いいわね」
「安定感をつけるにはどうすればいいんですか?」
 ここで生徒の一人が先生に尋ねた。
「それには」
「練習よ」
 先生の答えは至ってシンプルなものだった。それと共に非常にわかりやすいものであった。そして教育的なものでもあった。
「練習あるのみよ」
「練習ですか」
「そうよ、まずはそれよ」
 その生徒だけでなく全ての生徒への言葉だった。
「練習あるのみよ」
「努力ですよね、つまりは」
「それですよね」
「そうよ、それよ」
 まさにそれだという先生だった。
「人間は努力あってこそ。そして」
「そして?」
「その次は」
「平常心よ」
 それもだというのだ。二番目に来るのはそれだというのだ。
「平常心も大事よ」
「平常心ですか」
「それもですか」
「そう、落ち着いてしっかりと見て考えること」
 ここでもシンプルかつ教育的に話す先生だった。どうやらこの先生は教育者として中々できるらしい。少なくとも言うことはわかっている。
「それが大事よ」
「ううん、落ち着いてしっかりですか」
「それで見て考える」
「それ何でもですか?」
「勿論」
 先生の言葉はここでも確かでシンプルなものだった。
「部活だけじゃなくてね」
「人生の何でもですか」
「努力と平常心」
「それが一番大事ですか」
「そうよ。覚えておいて」 
 こんな話をしていた。そしてそれはだ。
 二年生の安達未来帆も聞いていた。黒い豊かな髪をかなり伸ばしている。肩を完全に覆っている。目はきらきらとしていてそのうえでかなり大きい。カマボコ形の目をしており大きめの薄い唇を持っている。
 背は一六五位ですらりとした身体をしている。その彼女がだ。
 暗い顔をしていた。そうしてだ。先生の言葉を聞いて言う。
「平常心って」
 その言葉を呟いてまた暗い顔になっていた。
「今の私にはとても」
 そんな話をしながら部室から出てある場所に向かう。そこはだ。
 
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